けーはち

ウルフズ・コールのけーはちのレビュー・感想・評価

ウルフズ・コール(2019年製作の映画)
4.0
主人公は“黄金の耳”と呼ばれるフランス海軍の天才ソナー手。シリアでの作戦中に、聞き慣れない“狼の歌”のような異音を聴き判断を誤った。彼はその正体を探るが……

「潜水艦ものに外れなし」とは言うが、本作は古典的な潜水艦スリラーの流れを踏まえつつも、予想を大きく裏切り、最終的には主人公が一介のソナー手でありながらその“耳”で世界の核戦争の危機に大きく関わる荒唐無稽さ。B級クソ映画にありがちなトンチキ展開なんじゃ……と思う向きもあるかもしれないが、本作のアントナン・ボードリー監督は外交官として15年務めてからコミック原作を手がけ、そして映画監督に転身したという異色の経歴の持ち主。漫画っぽい奇想天外、御都合主義とヒロイズムの中に、国際情勢を肌で感じ渡り合ってきたプロならではの核戦争想定時の国防・安全保障のリアル(っぽい?)の辛苦が沁みるそのバランス感覚を効かせている。

たとえ個人に優秀な能力があり、また個人間の友情や信頼があっても、国家や軍という組織の歯車である限り大きな流れには抗えず、それでも信じて出来ることをやるしかないという悲壮な諦念が通底し、意表を突く超展開にハチャメチャな風呂敷を広げながらも軍人個人の人情の機微と世界存亡の危機を同時に描き、ポリティカル・スリラーとしてギリギリ成立させている(かなぁ~。冷静に考えると微妙なところで本作の平均点の低さの所以やもしれない。でも観た直後はすごく良かったと……)。世界の警察、大正義、米国の勧善懲悪・愉快痛快アクションとは一味違う、ヨーロッパらしいペーソスのある佳作戦争スリラー映画となっている。