TAK44マグナム

恐怖人形のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

恐怖人形(2019年製作の映画)
4.0
大きくなってるー!


日向坂46の人気アイドル、小坂菜緒の初主演映画。
いまやアイドルが女優活動を始める登竜門として恋愛映画と並ぶ定番と化したホラー映画となります。
内容としては、若者たちが呪いの人形によって次々と殺されてゆくというもので、主要キャストは若手の俳優さんたちが中心ですが、脇を締める形で萩原聖人や黒沢あすか等が出演し、ベテランらしいエゲツない演技を披露。
萩原聖人はかなりイメージにマッチした役でした。本当、よく似合うなぁ。
ちなみに、黒沢あすかは特殊メイク・造形担当の梅沢壮一の奥さんでもあります。
梅沢壮一が監督した「血を吸う粘土」シリーズでもお馴染みの夫妻での共同作業というわけですね。
ご夫妻は藤沢市ご出身ということで、地元が同じなので勝手に親近感がわいてます。


カメラマンを目指す女子大生の由梨(小坂菜緒)は幼馴染の真人と共に、とあるキャンプに参加することになった。
実は、怪しい手紙による招待だったのだが、参加すれば10万円という報酬に釣られた真人を心配して、由梨も仕方なしに参加することにしたのだ。
集合場所には他の参加者も集まっており、不気味な管理人によってキャンプ場へと案内される。
初めて会った者同士ではあったものの、なぜか気が合わないということもなく無邪気に遊び始める参加者たち。
しかし、その姿をじっと見つめる目があった。
やがて、その目の主が参加者たちの前に姿を現した。
それは呪われた日本人形で、参加者たち全員に強烈な恨みを持つ者が呪いをかけていたのであった!
恐るべき人形は、ひとり、またひとりと参加者を殺害し始める。
殺戮の夜を、由梨と真人は生き残れるのであろうか・・・?!


小坂菜緒のためのアイドル映画という制約はあるものの、真っ当なスラッシャーホラーとして完成していて驚きました。
呪いの人形というお約束を使い、Jホラーに有りがちないつものオカルトかと思わせておいて、その実、超常的なビジュアルよりも「巨大化した等身大の日本人形がチェーンソーやら斧を使って物理攻撃を仕掛けてくる」という完璧なまでにスラッシャーライクなビジュアルで畳み掛けてくるのです。
この絵面のバカバカしいまでのインパクトがもう素晴らしいのなんのって。
古今東西、色々なマスクを被った殺人鬼や、動物の着ぐるみを着た殺人鬼などもいましたけれど、やたらでっかくなった日本人形がチェーンソーを振り回す姿はそうそう見れるものじゃないでしょう。
うがった見方をすれば、オカルトものでないと現在の邦画界では商業映画として企画が通りにくいので、どうしてもスラッシャーを撮りたい作り手が捻って日本人形を殺人鬼役に採用したともとれますが、ドアを開けたら巨大な日本人形がじっと立っている、みたいな見せ方もインパクト重視で上手くいっているので間違いなく正解。
和式なスラッシャーホラーとしてカルト化する可能性も秘めています。

というわけで、パンフレットによれば相当な映画マニアだという監督が、自身の好きなホラー要素をこれでもかとブッ込んだ出来であります。
「13日の金曜日」ミーツ「悪魔のいけにえ」がメインで、そこに「誕生日はもうこない」や「生体ジャンク狂殺の館」、そして「ハロウィン」等のエッセンスをまぶした感じかと思いますが、もしかしたらもっと沢山のホラー映画から引用されているかもしれません。
キャンプ場に到着するやいなや、これみよがしにチェーンソーや斧が置いてあり、黒沢あすか管理人が肉を包丁でぶった斬っている様子を映すという分かりやすさ。
レザーフェイスがチェーンソーダンスを踊り狂うように、マイケル・マイヤーズがそっと肉切り包丁を調達するように、身長2メートルぐらいの日本人形が凶器を持って残虐行為を行うのですから好きなものにとってはたまりません!
逆に言えば、そういったジャンルの作品を好きなら楽しめますが、純粋なオカルトホラーだと思って観た方や、小坂菜緒目当てのアイドルファンの方は呆気にとられてしまうのではないでしょうか(汗)
なんだこれは、新しい!と、新鮮な気持ちで受け取ってくれれば良いのですが(苦笑)、新しいも何もやっていることは70〜80年代から変わりばえしない古びたスタイルなんですよね。
邦画は圧倒的にスラッシャースタイルのキャンプマーダー系作品が少ないので、一周回って斬新かもしれませんが。

かように、そのスタイルやテイストは完全にキャンプマーダーや田舎ホラーそのもの。
しかしながらオカルト要素も全くないわけではありません。
よしこちゃんの人形が涙を流したり、自在に姿を現したり、説明のつかない現象も起きるので一割ぐらいはオカルトホラーと言っても良いでしょう。
また、超常現象の研究家が登場、人形を縛りつけて拷問をするという前代未聞のトチ狂った場面もあったりして、無理やりトーチャーホラーの要素も挿れたりしているのがこれまたステキ。

しかしながら、せっかくの珍しい邦画スラッシャーなのにとても残念な点があります。
それは何かと申しますと、残酷シーンはほほほぼカット!という、ロジャー・コーマン先生だったら怒って勝手に撮り足しそうな事実。
これは半ば仕方ないのでしょう。
なにせアイドルが主演するホラーだから(しかし、小阪奈緒は真摯に演技しており、スクリームクイーンとして悪くなかったです)商業ベースにのっているといっても間違いないでしょうから、まずは中高生のファン層に観に来てもらわないことには始まりません。
そうなるとレーティングの壁が立ちはだかることになりますよね。
それでは血しぶきが飛んで、ついでに手足や首も飛んで、内臓がデロンデロンになるような映像は無理ー!となってしまうわけです。
なので、そういった場面は全て想像で補うしかありません。
見られるのはいいところ、軽めに刺す場面ぐらいです。
そこで、壁に映った影や小便を血色に染めたりなど、涙ぐましい工夫がみてとれます。
どれも印象深いカットになっているのは幸いで、とてもセンスがあると思いました。
それだけに(せっかく第一人者の梅沢壮一を起用しているのにというのもあり)、残酷描写がカットというのは勿体ない。
たぶん無いのでしょうけれど、ゴアゴアなアンカットバージョンが是非とも観たいところです。
今度は制約無しで突き抜けた残酷スラッシャー映画を撮って欲しいですし、そういう土壌が邦画界にも欲しいと願います。

また、もしかしたら制約に対しての細やかな抵抗だったのかもしれませんが、唐突に百合なシーンがあるんですよね。
かなりソフトな表現だし、短いシーンなのですが、一応シャワーシーンもあったり。
これは監督のこだわりなのでしょう。
何故なら、スラッシャー映画には(絶対とは言い切れませんが)セックスシーンが不可欠な要素だからです。
だいたいセックスをすると、行為中、もしくは行為直後に男女とも殺されるのが定番。
これは「13日の金曜日」でキャンプ指導員がセックスにふけっていた為にジェイソン少年が溺れ死んだことからきていると思うのですが、とにかくセックスをしたら死ぬのが習わしなのです。
やはりレーティング的にヌードもNGなのでしょうし、本格的なカラミも難しいのでしょう。男女だと生々しくなるのでレズビアン設定にしたのかもしれません。
まぁ、この百合なシーンはお話的にはまったく必要ないのですが、スラッシャー映画には必要不可欠。こういったこだわり、嫌いじゃありません。というか、むしろ大好き(笑)

一般的にはキワモノと扱われても仕方ない作品ではありますが、作り手が作りたかったモノはやはりエモい出来映えになる可能性が高く、本作も決してつまらない映画では無いです。
スラッシャースタイルだったこと、そして予算の関係上チープにならざるおえない部分を許せないなら期待はずれかもしれませんが、ちゃんと主演女優をたたせているし、想像以上にスラッシャー映画に対して真摯なのが個人的にハマりました。
脚本も、話が面白く転がってゆくし、意外性も忘れていません。
バレバレではあるものの意欲的に伏線を張り、上手いこと回収してゆくのも昔の洋画スラッシャーと比べれば真面目で好感がもてる脚本だと思います。
どこからどう読んでも怪しさしかない手紙を信じて全員が集まるのは流石に無いなというのと、日向坂46だからってやたらと太陽について小坂菜緒に語らせたり、「大きくなってる!」とアイドルに言わせたいような設定はあざといと思ってしまいましたが・・・(汗)


ロケ地となったキャンプ場は「リング」や「ガメラ3邪神覚醒」の撮影でも使用されたアメリカキャンプ村で、泊まったことがあります。
川で遊ぶシーンで「似たところだなぁ」と思っていたら看板のご登場で「やっぱりそうか」と。
オフシーズンに撮影しているんでしょうね。
なかなかにゴッツいアスレチックがあったり、美味しいソフトクリームが食べられたりする、気持ちの良いキャンプ場でしたね。
しかし、あそこであんな凄惨な事件が・・・さすが天下の「リング」で使われたキャンプ場ですな。
貞子やら巨大怪獣やら殺人人形やら何でもいるんだもの。
龍脈でも通っているのか(汗)


兎にも角にも、無理して仕事前に朝イチの上映回を観に行って正解でした。
さわやかな日曜の朝から日本人形が殺戮凶器を振り回してナンパ野郎や立ちションマンをズタボロにしてゆく映画を観られる、この自由!これを最高と言わずとして何を最高というのか!(笑)
ただ、勢いでパンフレットを珍しく購入したのですが、もっとプロダクションノート的な記述が多いのかなと思ったら、当然ですが小坂菜緒らの写真がメインでしたね。
そりゃそうか。


冒頭の小坂菜緒の生脚に胸を熱くするも良し、一味違ったJホラーに舌鼓をうつも良し、立ちションばかりするキャラクターに眉をしかめるも良し、そして真正面からスラッシャーホラーに挑戦した作り手の意欲を買うも良し。
奇しくも今年は中元雄監督の「いけにえマン」もあり、一年に二本も「悪魔のいけにえ」にオマージュを捧げた邦画がスクリーンにかかったわけですが、個人的にはこういう作品は応援したい所存です。
海外では毎年腐るほど製作されていますけれど、日本では本当に珍しいですから。
殺人鬼のルックスがルックスなので海外でウケそうですけれど、どうでしょうかね。
輸出されないのかな?

それにしても、あのオチ。
続編あるの?(苦笑)
好きだなぁ。
露骨に思わせぶりな、ああいうオチ。
ホラーはやっぱりああやって幕引きされないとね。座りの悪い余韻がキモくてクセになるんですよ(苦笑)


劇場(イオンシネマみなとみらい)にて