にしやん

藍色少年少女~Indigo Children~のにしやんのレビュー・感想・評価

3.8
外で遊ぶ事を抑制されて生活している福島の子どもたちを「保養活動」として毎年招き入れる自然豊かな町で、その町に住む少年と福島から保養にやって来た少女との心のふれあいを描いたひと夏の物語やな。

わし失礼ながら、福島の子どもたちを受け入れる「保養活動」というもんも、それを神奈川県の藤野というところがやってるというんも全く知らんかったわ。それでこの活動自体が住民による全くのボランティアってとこもエラいもんやな。立派な話やで。この国も捨てたもんとちゃうな。

話のベースには主人公の少女の東日本大震災とそれに続く原発事故で背負ったもんがあんねんけど、映画の中では殆ど直接語られる訳あれへん。逆に受け容れる側の藤野の町で一見元気よさそうに過ごす子供等もそうやし、のどかそうに暮らす大人等もやけど、同じようにそれぞれの人生に人には言えん辛いもんや苦しいもんや悲しいもんを抱えて生きてるってことやろな。この映画のエエなと思たとこは、大人子供関係なくそれぞれ皆が抱える苦しみや悲しみに対して、主人公の男の子と女の子が子供らしい視点でそれ等に向き合うて、自分等の力で必死に解決しようとしてたところやな。その解決の仕方が子供らしくもあり、大人らしくもあり。子供はよう分かってんな。思わず応援したなるわ。

ほぼ全編モノクロームで描かれてるわ。最初大林宣彦っぽいなと思て観ててんけど、映画の最後まで観て、なんでモノクロ(藍色?)にしたんかの狙いが分かったような気ぃがしたわ。この映画は最初、ほとんど子供ばっかりが出てて子供向けの映画かなと思て観てたんやけど、どっちか言うたら子供やのうて大人に見てもらいたいということで撮られたんとちゃうかなと。モノクロの映像を観てると、50過ぎたわしがなんや40年前の自分を観ているような気がしてきたもんやから不思議なもんや。モノクロは、観てる大人が映画の中に出てくる子供に感情移入しやすい仕掛けやったんかもしれんな。観てる間に段々いつの時代の話か分からんようになんもんな。カラーは色あせるけど、モノクロは色あせへんな。

映画終了後の舞台あいさつに主人公の男の子役の子とその妹役の子が出てきたんやけど、ちょっとびっくりやったわ。二人ともそれぞれお父さん役の役者さん、お母さん役の役者さんの背丈を超えてたから。なんとこの作品6年前に撮られたんやと。全くそんな感じせえへんかったわ。モノクロで撮った狙い通りの効果やな。

それから、何ちゅうても子供等の自然な演技も見どころやな。聞けば出演の子供は全員、地元藤野町の子ども劇団の子等で、プロの役者を目指してへんってとこが良かったんかもな。本来の子供がもっているもんをしっかりちゃんと自然に出しててちょっと驚いたわ。最初は全員プロの子役かなと思て、この子等めっちゃ上手いなと思て観ててんけど、プロの子役は居ませんって話を舞台挨拶の時に知って、逆になるほどそういうことかなと。プロの変な教育を受けてへんほうがええんかいな。この映画に限って言うたらそうかもしれんな。奇跡的やなと思えるくらいの長回しのシーンがいくつかあったけど、プロの教育を受けた子役のほうが難しかったかもな。

残念なとこやけど、話をちょっと広げすぎというか、プロットをとっ散らかし過ぎてて、伏線の回収が大変なことになってしもてたとこやな。男の子と女の子二人で、これだけの問題を1日で全部解決せえっていうんは流石に無理とちゃうか?もうちょっとシンプルな構造にでけへんかったんやろか。サッカーとかも要らんのちゃう?不良の話も面倒くさいな。芸術家とかもどうなんやろ?ちょっと欲張りすぎたんとちゃうかな。余計かなというサブプロットが満載になってしもたんは出演する子供の役を増やすためっていう製作者の狙いがヒシヒシ伝わってきてしもてたな。できるだけたくさんの子供に映画に出演させたいっていう気持ちは分からんではないけど、もうちょっと工夫があっても良かったんとちゃうかな。

それとガラス工芸の女性の背景については、彼女の説明を聞いただけではちょっと意味が分かりにくく、彼女の感情かて今ひとつピンとこずやったわ。とにかく、伏線回収の描き方がモタモタしすぎ。伏線の本数自体を元々もうちょっと整理するか、伏線の回収の1日をもうちょっとコンパクトにするか、それとももっとスムーズにスマートに描くかせんと、炎天下に子供あんだけ走らせたら、子供熱中症になってまうんとちゃう?心配なってしもたわ。

伏線の回収にはモタモタしたけど、最後の最後のシーンにはカタルシスあったで。清々しいラストや。スカッとしたがな。子供が描く未来の姿にしか、わし等の未来はないってことをほんまに感じられるええラストやったわ。この映画を観た人は皆、藤野の保養活動、子供の劇団活動、それからそれらの活動を支える仰山の人等の情熱に対してエールを贈りたい気持ちになるな。そんな映画やわ。良作や。
にしやん

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