にしやん

ヒンディー・ミディアムのにしやんのレビュー・感想・評価

ヒンディー・ミディアム(2017年製作の映画)
3.8
タイトルの「ヒンディー・ミディアム」とは、インドでは「ヒンディー語で授業が行われる公立学校」の意味や。上流階級の富裕層が子供を通わせる「イングリッシュ・ミディアム(=英語で授業が行われる私立学校)」とは違て、普通の庶民が通う学校のことやな。この映画は、ヒンディー・ミディアムの教育しか受けてへん夫婦が、なんとかして自分の娘をイングリッシュ・ミディアムの名門小学校に通わせようとするドタバタコメディや。

本作のおもろさは娘を私立学校に入れたいミドルクラスの両親が無理して上流階級のマネしたりすらだけやなく、貧困層のフリをするんに悪戦苦闘するとこやな。子供を持つインド人にはとっては現代のインドの切実な「お受験」問題が背景になってるみたいで、わし等日本人から見たら「ほんなあほな」「そんな奴おらんやろ」とツッコミ入れたなるねんけど、インドでは「ありえんことない」とか「いっぺん考えたことある」とか思わせるくらいのリアリティがあるんかもしれんわ。それくらい入る学校による格差や差別が酷いってことなんやろか。

前半はいかにも付け焼き刃的なハイソぶりの空回りがおもろい。それに、夫婦のちぐはぐなとこやとか、とぼけた感じの漫才やコントみたいなとこもテンポがあってええわ。後半の、留保制度(学校入学や公務員採用に貧困層を一定の割合で採用するために作られたインド特有の制度)を悪用して貧困層に成りすます夫婦のドタバタぶりっちゅうんも、ひょっとしたらスレスレかもしれへんけど、現代のインド社会を風刺するコメディにちゃんとなっとる。それに、インドの教育制度の矛盾や教育産業の腐敗や歪みを、ちゃんと登場人物等の心情の変化に合わせて浮き彫りにしてんな。
 
「スラムドッグミリオネア」にも出てた夫役のイルファーン・カーンが上手いけど、妻役のサバー・カマルも良かったんちゃうかな。二人が頭から足の爪先まで全身ブランド品を身に付けて私立学校の面接に来るとこやとか、宗教や宗派を超えて殆どの神さんや仏さんをハシゴして拝んで廻るとこなんかはなかなか笑えたわ。それと「あなたの名前を呼べたなら 」の家政婦役で主役のティロタマ・ショームもなかなかええ芝居してたな。前作とは全く別人で、ちょっと慇懃無礼な教育コンサルみたいな役を完璧に演じてたわ。さすが役者や。

日本で上映される他のインド同様に、エンタメと社会問題の融合がめっちゃ巧いわ。ピザも食われへん貧しい暮らしの中でも、子供の将来を真剣に考えている貧民街の人々と交流で、主人公夫妻も少しずつお受験問題の裏にある、格差社会の真の問題に気付いていっきょるわ。自分等のやってることが、親としては正しさが仮に1%あったとしても、人として99%間違ってたら、果たしてそれは娘のためになんのか?、子供にとってのホンマの教育ってなんや?っちゅうこっちゃ。二転三転するストーリー展開は、夫と妻それぞれの葛藤の末に、最後には拍手を贈りたなるような心意気を見せてくれはるわ。伏線を活かしながらのなかなかエモいラストやな。

最後にちょっと説教臭いなと思うとこはあったけど、インドの深刻な教育格差や階級問題をテーマとしながらも、そこそこ楽しく笑えて、最後には泣けるバランスのええコメディやったんとちゃうかな。ベタやと言えばベタやけど。ベタはそんな嫌いちゃうし、まあ、ええか。
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