真田ピロシキ

犬王の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.4
湯浅政明監督と野木亜紀子脚本の最強コンビで去年から心待ちにしていた映画。原作は湯浅監督のサイエンスSARUが制作した最高に素晴らしい『平家物語』の原作となった現代語訳版を訳した古川日出男で既に読んでて期待要素ばかりが高まっていく。しかし過剰な期待は諸刃の剣。

物語は室町幕府の世でかつて平家とともに壇ノ浦に沈んだ三種の神器を都人の依頼によって引き上げようとしたために父と光を失った友魚(後の友一そして友有)と美を極めんとする父の生贄として化け物として生を受けた犬王という2人の奪われし者たちが正本から外れた異聞の平家物語を武器に成り上がろうとするもの。それで彼らの披露する猿楽は現代に通じる物語とするためにアレンジされているのだが、それがビジュアルはグラムロック的で音はQUEENっぽかったりとどうも古いロックの趣がある。クラシックなロックがダサいと言うつもりなどないが、現代の世に斬新さを演出する方法としてはあまり適してるようには思えない。しかもロックは今や中産階級にしかできない音楽とも言われているので、下層階級の情動としても齟齬が生じているように感じられた。湯浅監督だとデビルマンなどでラップを印象的に用いていたので、琵琶を使うこととの兼ね合いで難しさはあるがラップの方が面白かったんじゃと思える。本作のロック琵琶は結構退屈な時間に感じられて、あまり奇抜なことはしてなかった『平家物語』で奏でられる琵琶と比べるとかなり落ちる。本作の上映前に流れた予告がプレスリーの自伝映画だけだったのが何やら示唆的。

そんな訳で肝であるミュージカル部分が微妙だったのだが、犬王の舞は優雅できらびやか、しなやかかつパワフルで見応えがあり、映像研ファンとしてはこのアニメーションに水崎氏のエピソードを思い出させられて感慨深い。また序盤の見えない友魚や目があべこべな異形犬王に映る世界の表現なども実に面白い感覚を得られて、最初の方こそ原作未読者には分かりにくいかなと感じた話もエピソードの構成が段々野木脚本の妙を感じられるようになった。原作ではフェードアウトしてたと思う友有が最初に出会った師匠の自己犠牲はちょっと蛇足だったかもしれない。友有が死す時は産まれた友魚の名を使っていたが、600年の時を経て現世では再会できなかった親友とようやくまみえた時には自分で名乗った友有なのも、人は誰かに決められるのでなく自分自身でなりたい何かになれてそうあるべきなのだという、多様性が言われる今にマッチしている。声優はメインキャラで専業声優は津田健次郎くらいしかいないが、皆違和感を覚えることもなく良い仕事されてて、そこは流石映像研で伊藤沙莉の浅草氏という最高のキャスティングをされた湯浅監督だ。合わない部分もあったがずっと映画に集中して見てられた。