ベビーパウダー山崎

母と子の窓のベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

母と子の窓(1957年製作の映画)
4.0
母子寮の保母(杉田弘子)を中心にした映画だが、その周りの人物の物語がたんなる枝葉の話ではなくそれぞれ太い幹としてガッツリ描かれているのが番匠義彰。どのキャラクターにも強いドラマが用意されているので群像劇に近い。
戦後の貧富格差がもとにあり、善悪ではなくそれが一時の幸福だとしても富者が己の欲望のために貧しき者の尊厳を傷つけていく。幼い娘を一人育てながら上司と不倫をし、この貧困からなんとか抜け出そうとしている水戸光子も結局はうまくいかず自殺してしまう。立場に寄って様々な考えがあり、小学校教員の小林トシ子は目的のために手段を選ばないファシズムぎりぎりの共産主義思想で、子供たちの学芸会の芝居にも「金持ちの悪巧みと闘っていくんだ」的なメッセージを植え付ける尖り方(もちろんその後に大問題)で最高。はじめはその小林トシ子の猛進する言動に憧れていた田村高廣も次第についていけなくなり離れていくが、その判断が正しいのか腑抜けなのかは見方によってまた変わってくる。
杉田弘子は裕福な高橋貞二との結婚を「貧しいひとたちを残して自分だけが幸せになれない」と断る。そこには自己犠牲の美しさがあるが、俺がぐっと来たのは彼女の誠心によって高橋貞二が自らの愚行(人生の搾取)を戒める姿勢であり、下層民に理解があると思いこんでいた己の甘さ。私とあなたが結ばれる豊かさ(貧苦からの解放)より、多くの他者のために生きる道を選ぶ勇気とその決断を受け入れる確かな態度。身分の上下はどうにもならない。辛く厳しく生きられない者もいる。それでも、貧しき者たち同士で助け合いながらそして人生は続く。