真田ピロシキ

アルプススタンドのはしの方の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.4
高校演劇の実写映画化なのでそれらしく限定された空間で繰り広げられる映画となっており、試合状況などが映されることは一切なく台詞で物語は進行する。絶対エースの存在にやる気が失せた元野球部の藤野、インフルエンザで関東大会への出場を断念した演劇部の安田と田宮、学年一位と恋する野球部エース園田を吹奏部部長久住に取られた優等生の宮下の4人が主人公で皆がネガティブなものを持ちながら甲子園応援を強制されているが、端っこで遠巻きに眺めてるだけだった彼女らが田宮が宮下の心をちょっぴり開かせた辺りを契機に諦め或いはやっかむのを辞めて正直な気持ちに目覚めていく様を真っ直ぐ描かれている。

この物語の良い所は主人公は端っこにいるように陰キャなのであるが、彼女らを引き立たせるために久住に代表されるようなスクールカースト上位の陽キャを悪く描いてはいない点でそこが元の戯曲が高い評価を受けた一因なのかもしれない。共感出来る層が厚い。「真ん中にいるのも大変」とは日陰を安住の地にしてる人には書けない台詞。そういうのが必ずしも悪いとは言わないがマイナーからは抜け出せないのだ。『サマーフィルムにのって』の好感を持てた花鈴らキラキラ映画の人達を先取りしている。スタンドで声を出すことを強要する暑苦しい英語教師で茶道部顧問の厚木も最初の内は忌々しい体育会系脳にしか見えないのだけれど、かなり生徒を見ている事が描かれていて終わりの方では悪い印象はしない。陽キャだから体育会系だからと安直なステレオタイプに当てはめない人物描写に誠実でそうあるべき人の見方を求められているようだった。しかし野球は割と好きな方なんだけど自分の身と思って考えると強制的に観戦させられるのは嫌だなあ。厚木先生は良い奴かもしれないが、このエモい感動をダシにした体育会系への同調圧力にはやはり嫌悪感を多少覚えて乗り切れなかった。後日談もやや蛇足かなと感じ何なら打ち上げた所で終わって良いと思ってたのだがまさか矢野!矢野、お前マジか!なるほどこれはあった方が良い。現実にはかなりなさそうであるが、結果だけを求めて報われず腐ってしまう事に対して続ける素晴らしさを描いていて、これが高校生向けの話なのを踏まえると大変意味深いと思う。

演劇原作なのを表現して舞台は数か所しかなくてともすれば画の単調さに飽きてしまいそうなのをそうさせていないのは役者の力か。腹式発声が出来なくて喉を痛めカスレ声になった厚木の演技などユーモラスな点もあり。それとクライマックスで安田と田宮らの風になびいた髪が顔にかかる演出のように映画らしい瞬間もあって良い映画化と言えるのではないでしょうか。