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アルプススタンドのはしの方のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
日本で「ブレックファスト・クラブ」を作るなら、こういう感じかも。

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甲子園出場を目指し夏の大会1回戦に出場している野球部のため、全校生徒強制参加で応援にきた演劇部員の安田と田宮。野球のルールも分からずスタンドの隅っこでボンヤリ過ごしていた。遅刻してやって着た元野球部の藤野。さらにはガリ勉帰宅部の宮下の姿もあった。成績優秀な宮下だったが、直近の模試で吹奏楽部部長の久住に成績で学年1位の座を明け渡してしまったばかり。それぞれが思いを抱えながら、試合は熱を帯びていく。
第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞となる「文部科学大臣賞」を受賞し、全国の高校で上演され続けている兵庫県立東播磨高校演劇部の名作戯曲の映画化。

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全くノーマークだったけど、すごい面白かった!
もっとこう青臭くて暑苦しい負け犬達の青春ドラマかと覚悟してたら‥‥や、これはもう青春をやり過ごしてしまった人達の振り返り型青春映画の傑作では。(過ぎてみればあれが青春だったかな?型)


「しょうがないよ…」と肩を叩いて慰める大人の背中から始まる今作。思わず、今年の春以降同じように諦めざるを得なかった10代の人たちを連想して胸が痛い。


主要4人の会話劇。
4人の心境の変化や関係性の変化と、試合展開が絶妙にリンクしてるのも巧妙だし、試合そのものは一度も描かれず、グラウンドはおろかスコアボードも見せてくれない。それなのに、試合の緊迫感や徐々に熱を帯びていくスタンドに映画の観客も没入しちゃう。
最終的に、見たこともあったこともない矢野くんを心から応援してた「打て!矢野!」

ガリ勉少女が報われない構図も良くて、現実には必死に努力してる人より、要領よくツボを押さえて頑張れる人のが上に行くって往々にありがち。そんな理不尽さもあってか、宮下さんが他人の親切に対して非礼で返してしまう。どんだけ成績が良くてもまだ子供って事でもあるし、感じ悪いブラバンのアイツと同世代同レベルの人に堕したって関係性も立ち上がる。

伝わってくるメッセージは「戦わずして逃げるな」「最後まで諦めちゃダメ」「自分に素直であれ」「努力は必ずしも報われるわけじゃないけど、無駄になることはない」と言った至極真っ当で、ミミタコ並みに使い古された言葉だけど、改めて今まさに「しょうがない」で夢を断たれた人達がいるだろう夏に聞くと思わず感動してしまう。

厚木先生が顧問をしているのって「茶道部」ではなくて、日夜サウナで汗を流して水に浸かる「サ道(サウナ道)」の方じゃないだろうか。だがそうなると優勝!とか全国!とか熱くなる部分が分からない(サウナ石は熱くなるけど)。お茶だとしても分からない。

城定監督といえば「デコトラギャル」や「悦子のエロいい話」etc…お色気Vシネの多作家といった印象があったけど、思春期をこじらせた主人公や、青春見逃し三振してしまった人たちの作品ばかり。考えてみたら城定監督と青春映画って凄くピッタリなのでわ。

惜しむらくは、スタンド全体を俯瞰する広い画が一度もなくて(予算の都合?)どれくらいの隅っこで、どれくらい疎外感・孤独感・焦燥感を抱えた4人か絵面で分からして欲しかった。絵変わりが乏しく、ホントに小劇場で舞台を見てる気分にはなれたけど。

追記)
てっきり甲子園を目指す試合かと思ってたら、甲子園に出場を決めていて全校強制参加で応援しにきてるアルプススタンドの隅っこが舞台でした。アルプススタンドの向こう側に梢が見えるって、どんだけデカイ木が立ってるのか。どう見ても地方の市民球場だと思うじゃない(逆ギレ)

40本目
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