ブタブタ

ホドロフスキーのサイコマジックのブタブタのレビュー・感想・評価

4.0
『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』の自伝的三部作(五部作ともホドロフスキーは言ってたけど)の2.5作目とも言うべきドキュメンタリー。
占星術、神秘学、瞑想やアシッドやヒッピーカルチャーに造詣が深く、長年に渡るそのひとつの研究結果とも言うべきセラピー「サイコマジック」
心に病いや悩みを持つ人々がホドロフスキーの元にやってきて実践的心理療法「サイコマジック」その様々なバリエーションで「治療」「癒し」を受け新たなる人生の一歩を踏み出す。
しかしどれもこれもが見てて異様かつやってる事が余りに極端で完全にパフォーマンスアートであり見てて楽しい。
本当にこれ効いてるのか?と疑問を持つ人多数みたいだけど、そもそも「催眠術」の類いは「自己暗示」で、このサイコマジックに参加してる悩みを持つ人達も之は映画の撮影も兼ねてるって分かってるだろうし、多少なりとも演技したりしてる部分はあると思うし、其れを全部含めての「サイコマジック」なんじゃないだろうか。
ヨーゼフ・ボイスが時間や熱、運動エネルギーそのものを芸術=彫刻する事を「社会彫刻」と名付けたけど、ホドロフスキーもまた個人個人だけでなく社会そのものに対するセラピーを大勢の人々と共にを実践する大規模な「ソーシャル・サイコマジック」が後半の展開になる。

麻薬戦争により多くの国民が殺害されたメキシコをホドロフスキーが人々を引き連れて行進し演説する様は『ホーリーマウンテン』の冒頭近く、侵略と虐殺が行われている架空のメキシコで十字架に磔にされた動物の死体を掲げて行進するガスマスクを付けた兵士の行進とちょうど対になっている様。

ホドロフスキー自伝的三部作の完結編(?)『不可欠な旅』は前作ラストでホドロフスキーがパリへと渡り〝教皇〟アンドレ・ブルトンを中心とするシュルレアリスム運動に参加する模様が描かれると思うけど果たしていつ見られるのか。

ホドロフスキーを知ったのは『エル・トポ』の紹介記事で長編第二作『ホーリーマウンテン』がファンタスティック映画祭で確か上映され、移転前の渋谷ユーロスペースでも上映される事になってたのに修正の多さから映倫を通らず上映中止になってしまった。
そしてその数年後『サンタ・サングレ』が今はなき渋谷シネマライズで上映され、それが劇場でのホドロフスキー映画初体験となる。
それから何故か「ホドロフスキー=渋谷」という図式が自分の中で出来て(数年がすぎて)続く『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』も渋谷アップリンクにて鑑賞。
残念ながら『サイコマジック』は見に行けずアップリンククラウドで鑑賞。
この『サイコマジック』が公開したちょうどその時にアップリンク主催・浅井隆氏による長年に渡る社員らへのパワハラが明らかになる。
「もうホドロフスキーにキンタマ握り潰されろ!」と思ったものの浅井隆氏が長年に渡ってデレク・ジャーマン作品の日本公開や、日本では上映される事はないマニアックな作品の数々の上映やビデオ発売等など、浅井隆氏が果たした功績は大き過ぎて此処ではとても書ききれない。
だからこそパワハラ問題は残念で仕方なかった。
そして其れは全てが明らかになる事もなく何となく有耶無耶のうちに終わってしまった。
そして今年になりアップリンクの本拠地とも言えるアップリンク渋谷が閉館するという信じられないニュースが。
最後に『サイコマジック』をアップリンク渋谷で見ておきたかったです。
ブタブタ

ブタブタ