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少年の君のellieのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
4.0
管理化された統率と超格差社会ゆえの現代中国の過酷な環境下で出逢ってしまった二人がどういう結末を迎えるのか、最後まで息も出来ずに観た。密度が高く、サスペンス要素もありながら実に詩的でロマンチックな、ある意味新しいのに古さもある、とても奇跡的な映画に仕上がっていたと思う。

殆ど犯罪めいたいじめの内情に、中国という国の閉塞感と社会競争、そしてそれに伴う過激なまでの受験事情を思わせられる。学歴による社会的地位によって一生の懐具合が決まり、起死回生も一発逆転もほぼ望めない超階級社会のなかで、親の多大な期待を一心に背負う彼らは各々常に過度なストレスを抱え、どこにも行き場のないその苛々を生け贄にした同じ年頃の人間を見つけ苦しめることで晴らそうとしている。彼らのそうした行動がただの鬱憤晴らしであり悪などない(と思い込んでいる)ことは、自殺した少女を取り囲み、生徒たちが一斉に携帯カメラを向けるあの異様な冒頭を観ればわかる。

そのあたりのひどい麻痺や歪みを大きな問題点として、この映画はおそらく真正面から指摘しようとしていたであろうに、そこにあからさまに手を突っ込んで、まるで「当局はちゃんとやってる」とまとめた検閲的なラストシーンにはかなりの怖さを感じた。
それでも、主人公二人の演技の凄さと美しさがそれらの違和感全てをはるかに上回っている。あの二人の熱量と集中力、そしてそれを際立たせる淡々とした演出が何よりも素晴らしかった。思い出すだけで胸に、じわりと熱いものがよみがえるほどに。

後半の事件のあと、刑事が異常なほどに彼らに付きまとい、若い二人のした決断を幾度も覆そうとする。彼らが覚悟をもって決めたことなのに何故他人がそこまでしようとするのか?そこにも、当局の大人の思惑があると指摘していた人もいたけれど、わたし個人では正直よく分からなかった。ただ思うのは、正しさは常に正しいこととは限らず、愛もまた、強さだけをもたらすものではないのだということ。

あの映画の珠玉の台詞、「君が世界を守るなら、俺が君を守る」といういわばセカイ系の言葉が若気の至りと笑われ、社会の無謀な力によって簡単に無効にさせられない世界の到来をただただ熱望してしまう。そうしたピュアさだけが、これからの混沌とした世界を救う道なのでは、と信じているから。
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