極道系映画はあんまり得意じゃないので、前情報なしになんとなく観始めたら、なんだろう…なんかすごくいい映画な気がする…と思って監督を観たら西川美和だった。やっぱりすごいな西川美和。
演者としての役所広司に感動したことは実はこれまでほとんどなかったのだけど、これは泣いた。途中から三上にしか見えなくなって、視聴者であることも忘れて彼がまともに社会生活を送れるようになってほしいと本気で願ってしまったほど。周囲を固める役者も凄腕揃いで、特に仲野太賀は、毎度期待していつもそれを上回る演技をするので唸ってしまう。キムラ緑子姐さんの台詞もよかったし、スーパー店長六角精児も好きだし、こんなにいい人たちにタイミングよく出会えるなんていささかリアリティがない気はしたけど、それくらい現実ではムショ出は人や運に恵まれない限り社会復帰がきついせいなんだろうなと思ったり。
タイトルの「素晴らしき世界」という皮肉がじわじわきいてくる後半、老人介護施設での正職員たちの心ない言動を必死で我慢する三上に胸が痛かった。梶芽衣子扮する敦子さんの、「わたしたちみたいになんでも適当に流して生きてないとここでまともにやってくのは無理よ」っていうあの言葉、この社会で必死に生きてる多くの人の内面にすごく響くんじゃないかなと思う。なんとなく、人間的に問題があるのは普通に悪いことをスルーしたりごまかしながら生きてられてるこっちの方で、三上みたいな弱さを持った人間の方が実はまっとうなんじゃないか、間違ってるのはそういう人間を容赦なく弾いて知らんふりしてる社会なんじゃないかとすら考えてしまう。
あの台風のラスト、カメラが三上の部屋のなかを写し出すまでにうっすらどうなるかわかっていても、観たらとっても悲しかった。エンドロールまで深く余韻を残す、良作。
