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由宇子の天秤のellieのレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.5
劇場で観たいと思ってた映画だったけど、配信で観てもキツくて重かったから、大画面じゃかなりやられたかも…と思った。

なんだろう、脚本も構成も演者も全方向にすごくてちょっと言葉にならない。瀧内公美さんがとにかくすごいんだけど、丘みつ子さんもすごくて、というかみんなすごくて(河合優実ちゃんやっぱりうまいなあ)息をつく暇がないし、3分の1くらいの残り時間観て、これ以上怖いこと起こりませんように、何とかこのまま静かに終わりますように、って願いながら観てて、気づいたら視聴者なのにいつの間にか木下さんちの身内になってた。てか、『最愛』でめっちゃいいお父さん役やってた光石研さんが…まあ、なんでもやれるからこそすごい役者さんなんだけどさ…涙

起きた事件をめぐって報道のあり方で衝突する作り手と体面気にする上層部、を観ててこの間やってたドラマ『エルピス』を思い出してたんだけど、まさか正義を貫きたい側が家族の加害者的立場に立たされるなんてあれの先行くすごい設定だなと思う。この映画のうまいのは、そのあたりをいかにも葛藤してます風にわかりやすく主人公に悩ませるんじゃなくて、あんなに姉御肌で竹を割ったような性格の由宇子ですら、なんとなくめろっと静かに保身に回りますね…って感じに話が進んでくところ。そのへんの作りが絶妙だから、仮に現実にあなたの身に起きたら八割がた皆さんそうしますよね、ってなって、観ているこちら側の倫理観とか正義感を終始がしがしと揺り動かしてゆくことになる。

しかも、現実なんて所詮こんなんだよ…って思ってしんどいし救いようない気持ちになりながら、なんかちょっとどこかに隙間や人の逞しさみたいなものを入れ込んできて、あとはああいう終わりに決めるあたり監督の手腕というか懐の深さを感じた。

これ、もっともっと国内で評価されるべきすごい映画かと。
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