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劇場のyのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.5
主人公はどうしようもない人なんだけど、安易にクズとは呼びたくない。けれどこの人をそう呼ぶ人もたくさんいるだろうなと、終始複雑な気持ちだった…。
芸術関係のことをどうしても生業にしたい人、不安定なことなんて百も承知でそれでもそれしかできない人っていると思うんですよ…。その精神って世の中の常識とか当たり前とかで図ると「馬鹿」でしかないのかもしれない。本人もそれをわかってて事実その狭間で板挟みになってて、でも、見方を変えれば誰より自分に嘘のつけない正直な人なんじゃないですかね…そうじゃなきゃ心が死んでしまうんだ。その気持ちって多分同じ性質をもつ人にしか本当の意味で理解できないし異端であることを自覚しているからこそ彼女に自分のことをうまく話せない気持ちもわかる…。話して、そんな自分のことをもしも常識的な尤もな意見で殴られたら今すぐにでも消えてしまいたくなるほど繊細で脆すぎる気持ち、惨めな気持ち、劣等感。さんざん捩じれて歪んで。あたたかいものをあたたかいとも思えない。というか、細かく言えばあたたかいものを受け取ることを自分自身に許せない、そういう気持ちが彼の中にあるんだと思った。
いろんなずるさが互いにあるからこそ痛々しくてギリギリの関係。安易に終わらせることもできないのがまたずるいし苦しいんだけど。色々とダメすぎるクズ男なはずの主人公の気持ちも、彼女の気持ちもどちらの視点にも感情移入してしまって、この話はかなりつらいものがあった。又吉もきっと形は違えど同じような感情に苦しんできたのだろうなと彼が経験してきたことに思いを馳せてしまった。
今の社会だったら難しいんだけど彼のような人が心からやりたいと思うことを好きなようにできる、せめて人に頼らずとも生命を維持できるような社会になっていったらいいなと思った。何故ならそういう人たちが文字通り命を削って生み出す芸術に幾度となく救われた経験があるから。
ラストの劇、とても良かった。
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