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死霊魂のギルドのレビュー・感想・評価

死霊魂(2018年製作の映画)
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【毛沢東と彼の意志を継ぐ独裁に警鐘を鳴らす】
この映画をどう評価していいか分からない。
ドキュメンタリー映画は普段過ごしている生活では見えない世界を見せて、違う世界を知る要素が強いものと思っています。
この映画は普段のドキュメンタリー映画とは違ったストーリーの見せ方をしていて、そこに大きな意味があった。

この映画を面白い・興味深い、と評することが出来ない。
そんな作品が伝えたい回答は現代の中国の力は過去も現在も変わらない姿勢であること、そして未来でも起こりうる警告かもしれない。
物質的になった人骨たち・フィルム上で生き残った人々の証言が魂として警鐘を鳴らす一作だった。

【あらすじ】
反右派闘争で収容所に収監された人々の証言を集めたドキュメンタリー映画。
約22人の証言が集められ、百家争鳴に乗せられた反右派闘争の実情・3箇所の収容所での地獄のような生活・最前線のしがらみを描いた超大作。

1部で反右派闘争で右派と判定された人々の証言、2部で収容所生活の凄惨さを伝える証言、3部で反右派闘争による失墜・最前線での生と死の間を伝える証言という証言のストーリーで構成する特徴を持つ。


【見どころ】
一言でまとめるならば一貫して「死」を描いた歴史の循環を問う作品に感じました。
過去作「無言歌」の貧困描写と土地改革・大躍進政策(大製鉄・製鋼運動、四害駆除運動、密植・深耕運動)など中国共産党の暴力で国民を抑える性質を知っているかどうかで評価が変わる作品だと思います。
そのくらい本作単体で鑑賞しただけだとイメージが付きにくいというか、無言歌を見ると証言から見える惨さを知れます。(実際、生存者の証言から無言歌の着想を得ている部分もあります)

本作は基本的に証言を流し続けている構成ですが、無造作に見えて伝える主題がストーリーのように進行するところが映画として特徴的です。
そして言うまでもなく本作は証言のみとは言え極限の状況下で人間は人間未満になってしまう「惨さ」が凄まじいです。
見せしめ・ノルマとして人間関係の冤罪までも絡ませるところに恐ろしさも存在するし、カニバリズムを超越した「人間の獣化」も証言のみで伝えるところが他の映画にない恐ろしさだと感じました。


そんな「恐怖・惨さ」が強い本作ですが、2部にて収容所の「死」で救われたと証言する人もいて「死」を多角的に捉える作家性も特徴的でした。
「死」で真面目な人を狂わせる、生きるために殺す、生きるために生き延びる立ち回りをするなど…反右派闘争で亡くなった人々の魂が伝播してドラマになり得るところが印象に残りましたね。
他にも映画の最終シーンは明水収容所の跡地で墓も無く、人骨が散らばった姿を長回しで撮る印象的なシーンで〆になります。
生存者の証言で真実に到達したこと、そこで見えた沈黙する死者に敬意を払う姿は涙が出そうになりました。

監督インタビューでは反右派闘争を詳細にドキュメントし正確に歴史を刻むことを第一に考えた作品です。長い時間をかけて伝え方までも徹底して一本の映画に昇華させたところに凄みを持った作品と言えます。


【あとがき】
数多くの映画を見てきて採点するのが難しい作品に出会ったのは初めてです。将来的にスコアを付けるかどうか?も分かりません…
最後に本作を見て懐疑的に思うことを述べて締めたいと思います。

反右派闘争前後の歴史を追跡すると一人の独裁者のパフォーマンス・暴力性が浮き彫りになります。
ワン・ビン監督はインタビューで今日の中国について照らし合わせていないと公言している。しかし一観客として本作を鑑賞すると権力者の思想は繰り返ししているのでは?と感じる。
つまり、この映画はこの時代だからこうなったとは言えないところに恐怖も存在すると言えます。

三峡ダムの製作背景、香港の国安法、天安門事件、イナゴ・蛾の食糧危機、ウイグル問題、チベット問題、そして新型コロナウイルス…今の中国も少なからず反右派闘争当時の権力者の思想とその行く末を繰り返していると感じます。
だとすると、本作は無言歌や鳳凰とセットで反右派闘争の歴史を正確に刻む記録である役割と同時に繰り返す歴史への警鐘を鳴らす潜在的な役割を担っていると思われる。

映画終盤で収容所職員が「不適切な考え方や間違った出来事に直面し、自分に変える力がない時はどうする?」とワン・ビン監督に問うシーンがあるが、この時期に上映されること自体私たちにも問われた「気づきを促す」作品として後世に語り継がれるだろう。
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