ギルド

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のギルドのレビュー・感想・評価

4.3
【クジラだけが知っている「衝動と衝突の深淵」】
■あらすじ
ハンガリーの荒涼とした田舎町。
天文学が趣味のヤーノシュは老音楽家エステルの身の回りを世話している。エステルはヴェルクマイスター音律を批判しているようだ。

彼らの日常に、不穏な“石”が投げ込まれる。広場に忽然と現れた見世物の“クジラ”と、“プリンス”と名乗る扇動者の声。その声に煽られるように広場に群がる住人達。彼らの不満は沸点に達し、破壊とヴァイオレンスへと向かい始める。。
全編、わずか37カットという驚異的な長回しで語られる、漆黒の黙示録。扇動者の声によって人々が対立していく様は、四半世紀前の製作ながら、見事なまでに現在を予兆している。

■みどころ
面白い。
ある街に見世物小屋のような箱に入ったクジラとサーカス団がやってくる話。

全体的にジェネリックサタンタンゴみある作風だが、ダムネーション以降のタル・ベーラ作品の中でもアートディレクションにおける社会的意義の濃度が高い作品な印象がする。

先行きが見えない不安・恐怖が目の前に終わりなき衝突がクジラという存在だけで発生する。クジラというゲームチェンジャー…広義の神のような存在で衝突、搾取、疲弊、均衡の凋落など人間の本性・コミュニティの調律を狂わせる社会的な本質を突いた寡作でした。

パンフレットによるとタル・ベーラは崩壊の起因を目の当たりにして欲しいというメッセージがあり、現代社会にも通ずるメッセージ性があると言われればそうかもしれないようなタイミングで本作は4K版で登場した。
主人公のヤーノシュの純朴さも含めて登場人物のイデオロギーの記号的な存在は無機質ではあるが、本作くらいドライで崩落の様を絵面で示している時点で寧ろ相性が良いと思う程度にタル・ベーラフォロワーになったと実感しています。

個人的にはメッセージ性以上に絵面と質感から見える絶望感を色濃く描く『サタンタンゴ』『ニーチェの馬』の方が好みではあるが、これもこれで独特な質感があって面白かった。
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