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インフィニティ・プールのギルドのレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
3.9
【望まれないクローン生産者の搾取と内省の物語】
■あらすじ
高級リゾート地として知られる孤島を訪れたスランプ中の作家ジェームズは、裕福な資産家の娘である妻のエムとともに、ここでバカンスを楽しみながら新たな作品のインスピレーションを得ようと考えていた。
ある日、彼の小説の大ファンだという女性ガビに話しかけられたジェームズは、彼女とその夫に誘われ一緒に食事をすることに。意気投合した彼らは、観光客は行かないようにと警告されていた敷地外へとドライブに出かける。それが悪夢の始まりになるとは知らずに……。

■みどころ
犯罪やらかして死刑になっても金払えばクローン人間作ってそいつ死刑にできるよwなお話。
主にクローンを生成するパート、クローンを生成する事を利用したパートに分かれている。
ジェームズは処女作がこけたことで筆が進まず、資産家の娘と戦略結婚した関係も相まって家庭ヒエラルキーでは下に立たされている。
そんな彼はファンであると明言するある女性と接触し、その女性の夫と共に食事をするようになる。

やがて敷地内の生活に飽きたのも相まってファンの女性と共に敷地外へ旅行していくが、ふとした拍子で交通事故を起こして人を殺してしまう。

本作はここから一気に展開が変わり、廃墟のような刑務所に収監される。
そこに現れた刑事から観光客対策に金払えってクローン作ればそいつ身代わりに死刑にすることできるよ~という提案を受けるが…

映画の中盤から後半にかけてクローン人間があれば好き放題できるじゃん!神wwwと言わんばかりの展開が繰り広げられて「逆転のトライアングル」のようなテイストを思わせる。

けれどもクローン人間化までの奇抜なデザイン、好き放題やれる事を神のような存在だと誤認し酒池肉林を蹂躙するサイケデリックな描写はクローネンバーグ家らしい演出で良かったです。
醜悪さ・傲慢さ、身を滅ぼす電子ドラッグ描写は攻めてるしセックスを通じた肉体改造は親父のさ「ヴィデオドローム」やん!と思った。
なんというか変態な描写にはとことん変態でラリった潔さがあって好き。


本作はクローン人間を生成する事に対して
・何やっても許される傲慢さ、サディスティックさ
・優位関係になる当事者の想い

の2軸で転写していく。
クローン人間を通じて人間の獣的な部分を露呈する方向なら幾らでも遊べたはずだが、クローンで支配するという人間の支配的欲求に訴えていき、支配される人間の劣等感・見返したい気持ち、承認欲求、使役した後の虚無感(広義の賢者タイム)…を現出していく方向に舵を切っていて好き。

ジェームズは一人の男として認められたかっただけなのに、そんな彼の願いとは裏腹にコミュニティにおいてはまるで成人しているのに両親にネチネチ小言を言われる事に劣等感と不満を植え付けられる。
ある意味で認められない劣等感と溜まりに溜まった怨念が、クローン人間を使役する力学の中で最悪の形で現出する恐ろしい作品でした。

余談だが人間の醜悪さが齎すスリラーもありながらも、人間の内面に切り込み優位関係の克服と内省で締めるのはパナー・パナヒ監督の『君は行く先を知らない (砂利道)』と似た匂いがする。
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