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夕陽のあとのtoのレビュー・感想・評価

夕陽のあと(2019年製作の映画)
5.0
山田真歩さんが素晴らしい。

もちろん貫地谷しほりさんも素晴らしいんです。

貫地谷しほりさんは、NHK朝ドラ「なつぞら」のストーリーを転がす重要な役や、「プロフェッショナル」のナレーションで自分の存在をスッと消して見る人の感情をうわーと集中させる神ワザなど、スキルと経験と美貌とお人柄をいかんなく発揮した、まさに旬の女優さんでした。
長島町は今このタイミングよりもだいぶ前から貫地谷さんをキャスティングしててよかったね、と心から思うのです。

お二人とも素晴らしい女優さんなのですが、
今作の山田真歩さんの場合、
女優というのをスルリと突き抜けて、
ほんとに長島に住んでブリの仕事をし、子供のことで悩んでいる五月、そのものなんです。

貫地谷さんが映っていると、映画だなぁという情緒にあふれるのですが、
真歩さんがいると、情緒はたっぷりそのままに、あまりにホントっぽすぎて、ドキュメンタリーみたいな錯覚を覚えるのです。

鹿児島弁、すごい上手。
この映画では他にも、木内みどりさんや、川口覚さんのように、ネイティブじゃないのにネイティブをだます勢いで鹿児島弁上手い人が多かった。
方言指導がうま過ぎて、いったいどーなっとんじゃーと思いました。

真歩さんが演じる五月。
ブリ養殖の仕事姿も、女たちとの語らいも、
おにぎりを握っているその姿も
五月の思いや人柄がにじみ出てくる。
おかしい。あの家に住んでるとしか思えない。

「菊とギロチン」の小桜も
「花子とアン」の宇田川先生も
「半分、青い。」の西園寺麗子も
「シャーロック」の女刑事も
ほんと素晴らしいのだけれど
この映画の山田真歩さんは、さらに秀逸でした。
そしてとても、きれいでした。

実は先日、ご本人にお会いしたことがあったのです。
性格俳優的なイメージが強かったので
どんな方かなぁ、と思ったら
とてもチャーミングで、面白くて、一生懸命で、頭がよくて、人の気持ちが分かって、繊細で、前向きで、大人で、楽しんでらして、仕事熱心な方でした。
こんな方だから、宇田川先生役でお茶の間を席巻し、数ある朝ドラの中でも私たちの記憶に刻まれるお芝居をされるのだなぁ、と思いました。
お会いした時点で完全にファンになりましたが、
本作でまたひとつ先へ行かれました。

あと、祖母役の木内みどりさんも素晴らしかったです。
最初、地元のおばあさんかと思いました。
声がまろやかで、映画の端々で全体をふんわり包んでいるような感じでした。
五月と夫が向かいあって話すシリアスなシーンで、その間にちょこっと斜めに座ってらして、それだけで安心しました。
ウェブのインタビュー記事を拝読すると
今は事務所にも属さずお一人でやられているとか。
私、きりんさんより断然好き。
上手いおばあさん役を求めていらっしゃる方は、お願いした方がいいんじゃないかと思う。
余談ですが、ウェブ記事によるとこの映画の撮影期間はレンタカーを借りてご自分で運転されて川内原発など見に行かれたんだそう。
地元の様子を見てくださってありがたいことです。

(追記: このあと、2018年11月18日に急遽されました。たいへん残念です)

長島は、いい人ばっかりな島です。
島と言っても本土とは黒之瀬戸大橋でつながっています。
天気がよく、陽光が降り注いでいます。
映画も、素晴らしい夕陽に恵まれ、
島全体が応援しているみたいでした。

地方発の映画って、正直くそつまんないのがほとんどです。
でも本作は、キャストのレベルも、鹿児島弁の上手さも、地方だからって適当に茶を濁すこともなく、言い訳もせず、本気でした。

地元の地域おこしの人たちが長くあたためてきた映画が
ようやく今秋、お披露目となり、
さぞや感慨深いことだろうと思います。

長島は、風光明媚ではあるけれど、鹿児島空港からは遠く、電車も走っておらず、けして便利のいいところではありません。

農業のジャガイモや柑橘類、漁業のブリ、養豚養鶏なども盛んで、豊かではありますが、それは地元の人々がコツコツと真面目に働いてきたたまものです。

ほんとに昔から、いい人が多い、という印象なのは、何故なのだろう?
人柄すらも、この映画の端々で感じられるような、この島のやわらかい風土にとけこんでいるのかもしれません。

全国から、行ってみてほしい、というのは難しいかもしれませんが、せめて鹿児島、熊本あたりの人は、ドライブがてら、長島に行ってみてください。

終わりの方で、南国バスの斜めN.K.Kシートに、今をときめく貫地谷しほりさんが乗っていて、北薩出身者としては胸熱でした。

監督の過去作は、正直、あまり好きではなかったのですが、今作は、長島を舞台に、ほんとにそこにあるような話を切りとったような自然な感じがありがたかったです。

フィルマークスの試写に当選させていただき、ありがとうございました。
試写が終わって市ヶ谷駅へ向かう道中、フィルマーカーたちがポケモンGO並みに路上に立ち止まり、感想を投稿していました。
長島で映画作りを頑張った人たちに見せてあげたい光景でした。

私は、というと、映画の中で茜さんが豊和くんに作っていたハンバーグに惹かれて、ガストまで足を伸ばして食べながらこれを書いています。

長島だと、ハンバーグは家で作れば食べられるけど、漁業の家は魚が多く、外食もあまりしないし店も少ない。豊和にとっては、ハンバーグは食べる機会の少ないご馳走なんじゃないかと思います。

そういうレアさも含めて、豊和が喜ぶだろうなぁと想像できること、普通のハンバーグだけどフライパンのソースをかけるという、ちょっと都会的な感じが、あくまで豊和にとって印象強いだろうなぁ、と思われるところがよかったです。豊和の気持ちをそこまで考えられているとしたら、嬉しいなぁ、と思いました。
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