SPNminaco

アラビアンナイト 三千年の願いのSPNminacoのレビュー・感想・評価

-
そのまま「物語論」の映画である。魔法の瓶を電動歯ブラシでこすると、魔人が出てきて3つの願いを叶えると言う。かくして物語学者アリシアとジンの物語が始まる。
物語は形を変えて繰り返す。ジョージ・ミラーもだいたい同じ物語を語る人だ。孤独と絶望に閉じ込められたジンは、マッドマックスにおけるマックスと同じ。権力を握るのは男、求め願うのは女、そのサポートをするのは自由を奪われたアウトサイダー。但しアリシアには願い事、今更欲しいものがない。物語は充分間に合ってるから。
でも物語には語り手、聞き手が要る。そこで等価交換が成立する。ジンが語る壮大な神話的物語と、帰国後のアリシアの物語は、それを必要とする相手がいる。パンデミックを経た世界、差別や支配や戦争といった現実社会を反映した上で、物語は人類にとっての慰めや希望(または残酷な呪い)になるのだと映画は物語る。非日常から日常まで、形を変えて繰り返す物語は願いそのものだ。
入れ子構造の物語パートは動、現代パートは静。アクションと視覚効果で見せる方が手慣れた演出で、絵的にちゃんと物語っているけどやや大雑把な印象も。むしろティルダ・スウィントンとイドリス・エルバのミニマムな2人芝居がロマンティックで楽しかった。かつて『オルランド』で物語を繰り返し生きたティルダが、物語を信じる人に。最愛の人とアリシアに共通する貧乏ゆすりは閉所恐怖症的なものだろうか。でも女性が予め自立して自由で、更に「望みすぎ」てもいいのだ。
赤と青、暗く狭く閉じた物語世界と明るい陽光に包まれた部屋と街(ロンドンなのに晴天!)、エキゾティックな装束とティルダの可愛らしいファッションを対比しつつ、でもジョージ・ミラーはとても楽観的なヴィジョンの持ち主なんだろう。クレジットにドラマトゥルクがいるのはさすがだなあ。トルコの豆のお菓子食べてみたい。
SPNminaco

SPNminaco