モモモ

シン・ウルトラマンのモモモのレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
4.0
今年最大の期待作であった映画を遂に鑑賞。
個人的に思い入れの深い初代「ウルトラマン」の樋口&庵野が抽出し直すのだから面白く無い訳がない…という期待には応えつつ、手放しでは余り喜ぶ事も出来ない歪な一作、というのが鑑賞直後の感覚だ。
2度3度と観れば感想が変わっていきそうな作品ではあるのだが、上記の黄金コンビの「良い面」と「悪い面」が同時に出てしまった作品の様に思える。
「シン・ゴジラ」は奇跡的なバランスの「歪な作品」だったのかもしれない。
最大の長所であり、最大の短所にも感じたのは「編集」である。
今回も多量のカメラとカメラマンを導入した「アングル」と「物量」重視の撮影&編集が功を奏しているが、同時に「情緒的な間」「三幕の緩急」が完全に排除されてしまっている。
これは「庵野実写作品」の編集においてはお馴染みではあるし、それこそ「シン・ゴジラ」ではそれが完全に長所として作用していたのだが、本作では上手く馴染む事が出来ず。
完全な「官僚映画」ではなく、キャラクターの台詞回しや根本の脚本がより「アニメ的」な比重に傾いたのも大きいかもしれない。
初代の「宇宙人」エピソードを見事に「1つの映画」に変換はしているのだが、とにかく盛り上がりやメリハリが欠けている。
樋口真嗣監督の衰えない「戦闘演出」とケレン味は健在なのだが、ここぞ!という瞬間に欠けてしまう。
宇宙からの超速落下着地、スペシウム光線で欠ける山々、爆散する怪獣、異次元から巨大な手のひらが主人公を包み込み新解釈「変身」シーンと、挙げればキリがない「これこそ現代版初代ウルトラマンだ!!」が多々あったのだが。
闘うシチュエーションも「特撮的山々」から「街中」から「宇宙」と幅広く、始まりから終わりまで「怪獣バトル」の配分も大きい「今の邦画でここまでのスペクタクル映画が出来るとは!」と言う純粋な興奮は確かに存在しているのだが。
情報量の多さが仇となってしまったのか…矢継ぎ早に消化してしまったもどかしさも残る。
と、言いつつ僕は本作の否定派ではない。
前述した宇宙人エピソードをまとめた脚本術は「オマージュ」「再解釈」「再構成」のお手本の様でファンは満足する事だろう。
早々に正体がバレてしまう意外性、団地内公園でのシュールな会合、宇宙人サシ飲み、宇宙人割り勘…意外性とユーモアを忘れない話運び。
人間を知っていく「完全に同化していない」解釈はアニメ版デビルマンの様で。
ザラブの雑な誘拐、星野少年の素手での取り合い、藤隊員の巨大化、決着のつかないメフィスト戦、そしてゼットン…「まさかここまで再現するとは」の連続で満開の笑顔です。
何よりゼットンの捻りですよね。初代では「謎の円盤群」ってだけでしたが、それを差し向けたのが今作での良捻りでした。
彼の声優も意外性こそないが、庵野秀明と樋口真嗣の系譜なら間違いない人選ではある。
ウルトラマンの動作音、攻撃音、爆撃音や怪獣の鳴き声は「シン・ゴジラ」的な「当時のそのまま」でありながら「鷺巣士郎アレンジ」を施した劇伴がここぞで流れる興奮。
科学特捜隊のテーマ、ウルトラマンのテーマが流れた時は素直に童心に還る事が出来た。
そして冒頭のサプライズの連続には情緒が追いつかない興奮を覚えてしまった。
「ウルトラQ」の続編である事が度々強調されていた初代への愛の籠ったオマージュとサプライズ、そして「シン・ゴジラ」の流れである事を示すセルフパロディオマージュ、怪獣デザインの流用、余りにも贅沢で矢継ぎ早な冒頭こそ僕が本作で最も興奮した瞬間かもしれない。
長澤まさみの映し方に若干「樋口監督の悪い所」が出ていたとは感じるが、役者陣も概ね満足である。ただ「シン・ゴジラ」の様なキャラクターの愛で方はされないのかな、とも感じる。
個人的には山本耕史がベストアクトでしたね。
良い…凄く良い「人外」でした。
度々言及された「マルチバース」と終盤で登場するある人物…そして後に控える「シン・仮面ライダー」…つまりは…本当に直球でそういう事をするのかもしれない。
「シン・ゴジラ」程のヒットは難しいだろうが、どうか後続が続く様な興行収入を記録して欲しい。
「怪獣映画」の再興を邦画界で、もう1度。
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