モモモ

オッペンハイマーのモモモのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
時系列が入り乱れるお馴染みの基本構成と会話劇の融合、総決算的キャスト陣(お前も出てたんかい!が2人いました)の演技合戦とダンケルク以後(ジョナサンとの共作ではなくなってから)に見られる「淡々」とした語り口、IMAX撮影とルドウィグ印の大仰な劇伴で「大作を観ている」満足感を提供し、実証主義に拘る画作り(マンハッタン計画)に低音が響き過ぎる音響が説得力を持たせる。
ノーラン作品総決算と言っても差し支えの無い映画なのではないでしょうか。
原爆実験成功「の後」に真の盛り上がりを見せて収束していく終盤戦でやられましたね。
ダークナイトが同じ理想を抱いた3人の男達の破局に、インターステラーが親と娘の愛情に、TENETが男達の友情に焦点が絞られて幕を閉じる「パーソナル」で「ミニマム」な映画だった事を思い起こせば、本作自体の「パーソナル」な質感は当然の帰着だったのかもしれない。
皮肉屋で、女性にだらしなく、エゴを優先しながらも罪悪に苛まれる。己の欲に忠実ながらも真っ当な倫理も抱いている自己矛盾を体験をしたような「偉大な科学者」の物語。
オッペンハイマーの周囲も一筋縄とはいかない人物達で、片面で見れば偉大な男だが片面で見れば矮小であったり不誠実に映る。
夫がいながらオッペンハイマーとの子を宿しなし崩し的に再婚しながら産後鬱でネグレスト気味な様子を見せる…という側面だけ見ると「碌でも無い人なのでは…?」となるが、告発の裏で糸を引くものは誰なのかを男達よりも先に見定め圧迫的な聴取に臆する事なく果敢に言い包める知的さを持つ…と言う一面に魅力されてしまう。
最終盤の「握手を拒む」が最高でしたね。
人間、こうありたいものです。
原爆投下で終戦を予期し歓喜する白人達、彼らの熱狂に答える演説を行いながらも、自分が進めたプロジェクトで「大量虐殺」を行った事実と「世界を変えた」恐怖を「無音」と「幻覚」で痛感するあのシーンはもう1、2度映画館で観ておきたいですね。
主人公が「エゴイストである」事を長尺で描いた上で「日本への原爆投下」を描いてる訳なので、かなり誠実な作りなのではと個人的には思います。
大気に引火して文字通り世界が滅びる可能性が「0に限りなく近いけど0じゃない」中で実行してるんですから。正当化とは程遠いのでは。
世界を焼き尽くす事はなかったが、冷戦という時代を作り、今も尚続く核抑止と言う幻想の中での軍拡を思うと、ラストシーンの内省的な語り合いに血の気が引いてしまう。
果たして本作を経たノーランは何を作るのだろうか…既に期待で胸が一杯です。
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