モモモ

アイアンクローのモモモのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.2
「鉄の爪」との異名を持つ実在のプロレスラー一家の犠牲と破滅を通して「有害な男らしさ」と「家父長」を解体する傑作スポーツ映画。
ここ10年ほどの中で出てきたマッチョイズム批判映画で最も優しさと上品さに溢れた映画なのではないでしょうか…。
暴力的なシゴキをする訳でも、軍隊のような苛烈な言葉で罵倒する訳でもないが、子供を縛り、自由意志を削ぎ、己の願望を押し付ける「父親の姿」に自己の人生を投影してしまった。
表向きは良好な関係に見えるが、主人公は父に「弟に厳し過ぎやしないか」と面と向かって言う事が出来ず、母は「兄弟で解決しろ」と務めを放棄する。
自分たちの意志で選んだ事だと刷り込まれ、身体も心も磨耗し、ここではない何処かへと逃げてしまいたくなる。
兄弟と父のサクセスストーリーにも思えた中盤までの展開から一転、物語は、兄弟は、坂を下り落ちていく。
悲劇の瞬間は1度も映像に映る事は無く「予感」と「後悔」のみがスクリーンを支配する怒涛の後半戦が忘れ難い。
「父に」かけられた人前で泣いてはいけない、弱い所を見せてはいけないとの呪縛を「息子たちが」解いてくれる「人生への優しさ」に溢れたラストシーン。家族という呪縛と、家族という福音。
明確に「ゴーストストーリー」として描写された2シーンに涙が溢れた。
愛する者達は、この世ではない場所で、より良い場所で、微笑んでいる。
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