真一

異端の鳥の真一のレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
5.0
 群れの中の誰かを「異物」とみなすと、私たちはその人を人間として扱わず、虫けらのごとく足蹴にするようになるー。そんな恐ろしい「人間の本性」を浮き彫りにしたのが、この「異端の鳥」です。マイノリティーに対する集団憎悪のおぞましさを、ここまで赤裸々に描写した映画はほかにあるだろうかと思ってしまうほど、過激で赤裸々な描写が続きます。ウクライナ、スロバキア、チェコの共同製作で、全編モノクロ。傑作です。

 本作品は、第2次世界大戦下の東欧を、ユダヤ人とおぼしき10歳ぐらいの少年が、当て所もなく放浪するロードムービーです。自分の名前も出身国も分からない少年は、行く先々で差別と憎悪にさらされ、顔を背けたくなるほどの酷い仕打ちに逢います。

※以下、ネタバレ含みます。

 中でも強烈なのが、キリスト教会の信者宅での虐待です。ドイツ軍のユダヤ人狩りから奇跡的に逃れた少年は、心優しき神父から紹介された信者男性にかくまってもらいますが、そこで待っていたのはレイプと虐待でした。群れの中の「異物」(マイノリティー)でしかない少年には、すがる神もいないのです。悲惨すぎて言葉もありません。

 本作品では、少年以外にも「異物」が登場します。森の中を放浪する知的障害がある女性です。この女性が村の若者たちと性行為に耽っていると知った村民たちは「売女」「化け物」などと叫びながら、女性を襲撃し、身の毛もよだつ方法で惨殺します。マイノリティーに対するマジョリティーの憎悪(ヘイト)が爆発した瞬間でした。

 この映画は80年以上前の東欧を舞台にしており、私たちが暮らす日本とは縁遠い話に感じるかもしれません。しかし現代日本でも、少年たちが路上生活者を「異物」扱いし、ゴミクズのように蹴飛ばして死に至らしめるといった事件は絶えません。そもそも100年前の関東大震災時には、自警団や軍が朝鮮人を「異物」とみなして虐殺したという歴史もあります。

 そう考えると、本作品は、排他主義とレイシズムという人間の本性を見事に描いた大作と言えるでしょう。ただ、非常に重たい内容なので、体調が良い時に見ることをお勧めします。
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