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マリッジ・ストーリーのエスのレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.4
愛は時間をかけて育まれるもので、それが永遠に続くという保証はない。だけども何故だか多くの人が公的に永遠を誓う。相手も人間なので時を重ねればみえてきてしまう欠点もお互いにある。そして、気持ちが離れていくのを食い止めるのが話し合いや意思疎通で。今作での二人は忙しさのあまり、それが少し遅かったと思う。

とはいえ、離婚というか結婚した事すらない身なので遠い世界のことのように思える節もありつつ、代わりに口喧嘩してもらうだけという離婚調停の実態を初めて知り、”愛し合っていた人たちの積もりに積もった意見の食い違い”、たったそれだけだったのが意図せず激化していって、それが知らぬ間に先鋭な敵意へと成り変わっていってしまうのは恐ろしかった。結婚という契約の重み。段々勝つ事だけが目的になっていって、醜い告げ口暴露合戦を経て、お互いへの残り僅かな信頼が粉々になっていくのはみていて胃が痛かった。トイストーリー等でお馴染みのランディニューマンのスコアがとてつもなくロマンティックなんだけど、内容はドロッドロで終始心はボロボロです。

だがしかし、跡形も無くなったように思えた愛は、そんなことはなく、本人たちの意思さえ通じればやり直すことができるらしくて。今まで通りじゃなくとも、一般的な型に当てはまらなくとも、本来の目的を見つめ直し、互いの原点を見つめ直し、絆を育み始めた二人がとても美しかった。あの涙とあのハグ。あの靴紐。紛れもなく愛でした。

こちらも深く胸を突き刺した中盤での”男女での理想の親像の差”についての言及は、自分でも密かにチャーリーとニコールに対して抱く印象に、不覚にもその固定概念が現れてたのでゾッとしたし申し訳なくなった。

”父親は不完全でもいい。
“よき父親”なんて言われ始めてせいぜい30年。
それまでの父親は寡黙でボーッとしてて頼りなく自分勝手だった。愚痴をこぼしつつ、それを受け入れ、欠点を愛していた。ところが、それは母親には当てはまらない。社会的にも宗教的にも許されない。母親は完璧であることが絶対条件。”

母性の神聖化と女性に求められる不条理。この一連にはバービーにも似たものを感じたね…夫婦とはいえだけども。

ララランドに似たような後味を噛み締めていたらIMDbで関連作品に出てきて、おっ、やっぱそうだよね、となりました。主演二人の力演。大好きなアラスター役のアミールタライにもびっくり。やっとみれてよかったです。
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