みかぽん

キル・チームのみかぽんのレビュー・感想・評価

キル・チーム(2019年製作の映画)
3.8
愛国心から入隊を決めると、父親からはその決断を讃えられ、空港ではすれ違う見知らぬ人にまで敬礼を受ける。
彼の心は高揚し、改めて国のために尽くそうと気を引き締める。

ボーイスカウトの延長みたいな占領地の風向きが大きく変わったのは、上官が地雷を踏んで亡くなってから。
後日やって来た新しい上官(軍曹)は優男な隣人風。それを一瞬で値踏みした仲間の一人が、舐めた感じで軽口を叩くと、軍曹は表情を変える事なくこの部下を速攻で戦力外通告。まさに瞬殺。
小隊全体が緊張で引き締まり、あっという間に主従関係も成立。場を締めるボスの君臨に、軍隊に於ける指揮命令系統の明確化とはこういう事か、、と観る側の私も同じくその〝凄み〟に鳥肌を立てた。
そして同期の仲間は疑いなく彼に一目を置いてその意思に従い、沿わせ、人としての感覚を次第に狂わせて行く。

そうした状況に疑問を感じ、告発すべきとした主人公は、まさしく〝異端の鳥〟。
軍曹率いるこの集団の中では、すぐにでも排除必須な存在となった。
こうして主人公は、身内であるべき居場所からも(ヘタを踏めば)〝裏切り者〟として処刑の対象にもなることで、誰にも気持ちを許せない緊張を強いられ、心はどんどん追い込まれて行く。
こうした主人公の異変を敏感に感じた軍曹は、彼に対し、捕らえた民間人をテロリストに仕立て上げ、彼に処刑を命じるのだ。
気持ちを拒否させても、身体を命令通りに動かさなければ…自分は裏切り者の烙印を押され、そのまま全てが露呈してしまうのではないか、と彼は怯える。
彼の心は更に行き場を無くし、まさに自分の心身がバラバラにされて行く究極に置かれてしまう…。

これは今回に限った物語はなく、ひと昔前の日本軍の中でも同じ方法を取り、逃げ道を断たせて人間らしい気持ちを諦めさせていたのだと聞く。
人は起こした結果を後に反省しても、実は大して学んでおらず、同じ過ちを何度も繰り返す習性のある生き物だ。

この物語は意外な展開で決着をみるが、それは正義が勝つという内容からは程遠い。
そして、そこで感じるモヤモヤの本質を、我々は忘れてはならないと思う。
みかぽん

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