Solaris8

私のちいさなお葬式のSolaris8のレビュー・感想・評価

私のちいさなお葬式(2017年製作の映画)
4.3
1/18 岐阜の木曽三川マラソンを走る前日に岐阜市に前泊したが、岐阜柳ヶ瀬Cinexで当映画を観た。映画館がある劇場通りのアーケード街には赤いレッドカーペットが敷かれ、古めかしい映画館で、当映画の赤いポスターが目に止まり、レイトショーは1100円だった。

映画はロシアの片田舎で一人暮らしする元女教師の終活を描くコメディ映画だが、ロシアの田舎で暮らしているロシア人が田舎や都会の事をどう考えているのかが窺え知れる映画で、実態は日本の田舎で暮らす人々と大差が無く、面白かった。

先週、スキー場でふきのとうを見かけたが、山頭火の句で、「ほろ苦さも故郷のフキノトウ」という句がある。自分が此れから老いて行く事や、残りの人生を田舎で暮らして行く事に、ほろ苦さを感じる映画で、田舎の事を辛辣に描き、田舎には手厳しい映画だったが、それでも何処か憎めなくて、自分が土に帰るとしたら、生まれ故郷しか無いと思わせる映画でもあった。

主人公は可愛らしく性格が良さそうなお婆ちゃんだが、聡明な元教師で、周囲の住人も主人公に教わった過去が有り、頭が上がらない元先生という立場になる。主人公は性格も良く親しみ易いが、息子の教育には熱心で、息子が選んだ恋人の器量に口を挟み、恋人を別れさせて、無意識なうちに人を選別し、強かで傲慢な性格を隠し持つ。

主人公は都会志向が強く、優秀な人は都会に進学して就職すると考えていて、主人公の息子も都会に就職するが、田舎には5年に一度しか帰って来ない。本人も内心寂しいが、周囲にはそんな気持ちを漏らさず、自分が年老いても迷惑は掛けられないと思っている。元女教師の主人公に、息子との交際を断られた息子の元恋人がその事が原因で身を崩して、落ちぶれた様が痛々しく、都会暮らしをする主人公の息子が久しぶりに田舎に戻ってくる事になって、それでも化粧する姿には笑いを通り越して心が痛む。

息子も都会で成功しているように見えるビジネスマンだが、怪しげなビジネスコンサルタント事業者で本人も後ろめたさからか疲れている。母の終活に躊躇いながらも母の元に返って来て終活を見届けようとする。息子の行動が何処と無く母と噛み合っていないが、自分の母が亡くなった時もそうだったので、そのすれ違いには頷けるものがある。

主人公の生き甲斐になった解凍されて蘇った鯉もシナリオに合わせて、面白く描かれていて、理解出来るようで理解出来ないラストシーンがロシア的で意表を突いて面白い。
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