ジャン黒糖

ラスト・クリスマスのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

ラスト・クリスマス(2019年製作の映画)
3.7
いままで『ブライズメイズ』『ゴーストバスターズ』など、アラサー、アラフォー女性同士の下劣だけどリアルなブラックジョーク飛び交うコメディが多かった印象のポール・フェイグ監督が、『シンプル・フェイバー』でサスペンスを描いた次が、この『ラスト・クリスマス』で、公開当時予告編やポスターを見たときには正直「え?!純ラブストーリー!?」と驚いた。
ただ、レビューの多くが「思っていた作品と違ってよかった!」とあって気になり、且つ先日同監督の『シンプル・フェイバー』も見てレビューしたばかりということもあり早速観賞。
なるほどたしかに想像していた話と違ったが、これはたしかにポール・フェイグ監督が起用された理由もわかる作品だった。

【物語】
歌手志望のケイトはオーディションでうまくいかず。
自分自身の身勝手な行動によって職場・家族・友人には迷惑ばかりかけてしまう。
そんなある日、彼女の務めるクリスマス雑貨店の前に現れたトムと名乗る男性と知り合い、どこか浮世離れした彼の存在に次第に彼女は惹かれていく…。

イギリスの人気ポップデュオ「ワム!」の言わずと知れた名曲"Last Christmas"にのせ、『ブライズメイズ』『シンプル・フェイバー』のポール・フェイグ監督×エミリア・クラーク主演で描くラブストーリー?

【感想】
ポスターからしてクリスマスを舞台に、トムとケイトの恋愛模様が描かれるのかな、と予想していた。
たしかにすぐには関係を持たないまでも次第に惹かれ合う2人は描かれる。
ただ、それ以上に物語は周囲に迷惑ばかりかけてきたケイトの、人生の再出発が軸として描かれる。

かつて自分が思い描いていた人生と異なる道を歩み始めていると感じることが多くなるアラサー世代としては、次第に変わっていくケイトの姿に、背中を押してくれるような、とても前向きになれる映画だった。
脚本は本作にてケイトの母親役としても出演しているエマ・トンプソンが務めているが、それをポール・フェイグが監督するというのは、映画を観てまぁなんとなくわかる気がした。


ケイトを演じるエミリア・クラークは『世界一キライなあなた』のときもそうだったけど、もう顔による表現力が只事じゃない。
笑顔が綺麗なのはもちろんのこと、驚き・悲しみ・喜びなど、感情を顔で全力で表現している感じ!好きです笑

彼女の前に現れるトムを演じるは、先日観賞&レビューしたばかりの同監督作『シンプル・フェイバー』でもファムファタール的役割を果たしたブレイク・ライブリーに全然引けを取らない夫役を演じたヘンリー・ゴールディング。
英国人美女を前に、現実からはちょっと浮遊したような魅惑的な男性像を堂々とアジア俳優が演じる、というのはちょっと昔だったら考えられなかったよなぁ。。
普通にかっこいい。"Look up!"だなんて、普通にやったら頭おかしいんじゃないか?と思われるような所作も、魅力的に見えてしまうから凄い。

後半明かされる"ある事実"については、なんとなく予想はしていたけどしっかり驚いた。
ただ、その"ある事実"が明らかになったことで、却って「え、じゃああの場面のあれはどういう原理?」とかケイトに助言与えてたあれって劇中におけるどんなルール?など、フィクションゆえどうしてもしょうがない引っ掛かりが生まれてしまった。

また、先ほど次第に変わっていくケイトに「背中押された」といったけれど、彼女がどんどん前向きに変わっていくプロセスも、合間合間に家族の修復し難い関係性が描かれたりするため、「あれ、いま前向きムードになる展開じゃなかった?」と映画バイブス的に若干乗り難い場面もあった。
そのため、おそらくはトムによって徐々にケイトは前向きに変わっていったんだろうけど、合間に挟み込まれるシーンによって、果たしてケイトを変えたのがトムなのか、自発的なものなのかわかりにくくなってしまった印象。

ただ、そういった気になるところはあるにせよ、主演2人の演技によってグイグイ引き込まれるし、最後のクリスマスパーティはとにかく多幸感に溢れているので、観終わったあとの満足度が高い。

20代、自分自身のことで精一杯で見過ごしてきてしまったことなどを今一度見直してみるのもいいな、そう思えただけでこの映画素敵!
おすすめです!
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