ジャン黒糖

バービーのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.9
この映画ほど「"2023年らしさ"を代表する映画」という評価が似合う作品はないのではないかな。
そりゃ確かに賞レース活況の年明け以降は2023年の映画=オッペンハイマー一強の印象があるけれど、ただ、現在進行形の時代が持つ空気感やメッセージ、映画以外のポップカルチャーとのクロスオーバーなどの側面においてこの映画ほど、"2023年らしさ"を纏った映画もない気がする。

コンピレーションアルバムはたしかに自分にとってもしょっちゅう車内BGMとして流したし、Lizzoの「Pink」Dua Lipaの「Dance The Night」ビリー・アイリッシュの「What was I made for?」は昨年色々な媒体で何度聴いたことか!
LizzoとハイムとDuaLipaとビリー・アイリッシュとカリードが一つの映画のサントラに並ぶだなんて考えらんなかったよ!笑
アカデミー賞では歌曲賞受賞したけど、あわよくば「ベストアルバム賞」があれば本作にあげたかった!


そんな、2023年らしさを象徴する映画であり、プロデューサー=マーゴット・ロビーの存在感を決定付けたような映画、それが『バービー』かなと。


言わずと知れた人気女優のマーゴット・ロビー。
彼女がプロデューサーとしても本作に名を連ね、監督にグレタ・ガーウィグ、脚本にノア・バームバックを抜擢したことがめちゃくちゃ大きい!

それまで比較的小規模な映画を手掛けることが多かったこのコンビ。


上述のポップミュージックの数々も凄い。
けど、こういった商業作品でラストにはこの2人の作品らしいエッセンスが詰まったメッセージが待っていることに驚いた。

この2人の作品によく見られる自分なりの特徴は、「自分なりの幸せを模索する」話。
「じゃあ"私なりの人生"って何なのさ」を描いてきたと思う。

グレタ・ガーウィグ監督作では『レディバード』における母からの教え、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』における時代に型ハメされそうになる女性の社会的ロールに反して、主人公が自分にとっての幸せを追求する物語が描かれる。
ノア・バームバック監督×グレタ・ガーウィグ主演の『フランシス・ハ』でも、まだ自分の夢半ばの主人公がそれでも模索する姿が描かれる。

そんな、彼らの作品にもあったエッセンスが、バービーという物語、さらに言うと#MeToo以降のハリウッドにおいてバービーを題材に描かれるとは思わなかった!

前半はそれこそバービーが現実世界にやってきたら、という"もしも"をコメディ映画のように楽しんでいたけれど、後半はこの世に生を受けるということの意味自体を考えさせられる展開になっていく。
女性らしさの解放を象徴するハズのバービー人形たちが、解放することで却って性差別の対象物となり得てしまう現実や、男性社会で成り立つ企業体質など、シビアな側面が見え始め、男性としては観ていて居心地悪くなる場面も散見される。
そして人形としてのバービーが解放された世界で待ち受けるラストのオチはまさかまさかの展開で、偶然にも同年公開された『哀れなるものたち』とも重なった。


そんなお2人を抜擢きたマーゴット・ロビーのプロデューサーとしての手腕の確かさたるよ。

本作で制作会社としてもクレジットされているラッキーチャップエンタテインメントは、彼女が夫と立ち上げた映画会社。
2014年に設立後、2017年『アイ,トーニャ』などを制作。
マーゴット・ロビー自身の出演有無を問わず、その後も何本もの映画を手掛けた。
設立にあたってマーゴット・ロビーは「作り手側に回ってクリエイティブコントロールを利かせたい」との想いがあった。
2014年といえば『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』のころで、若いうちから自分のビジョンをもって動いてきた彼女は格好いいなぁ。

そんな彼女にとっても『バービー』は、フィルモグラフィーにおいて決定打的一本、だったとも思う。



そう考えると、アカデミー賞で歌曲賞のみに終わった、というのは今ひとつだったように思うし、なにより監督・主演がノミネートされなかったのは残念だった。

脇を飾る役者陣、みんな良かったなぁ。
ケン役のライアン・ゴズリングは、アカデミー賞でのライブも良かったけれど「I'm just Ken」最高だったし、笑わせてくれたし、不器用な男の役が彼は本当似合う!
彼がいてくれたからマーゴット・ロビー演じるバービーも輝いていた!

シム・リウ演じるケンも、バカな役が最高に合ってて嬉々として踊るのをみるだけで笑っちゃう。
『シークレット・インベーション』では気持ち悪いヴィランを演じていたキングズリー・ベン=アディル演じるケンもバカっぽい!
マイケル・セラ演じるアランも良いキャラしてたね。
ウィル・フェレルは…ウィル・フェレルでした笑

バービー役の女性陣も良かったよ!
イッサ・レイやアレクサンドラ・シップは格好良かったし、ケイト・マッキノンは相変わらず頭ぶっ飛んだ役だし、Dua LipaはDua Lipaだった!笑
エメラルド・フェネルは何役だった?!気付かなかった…

脇を含め、総力戦でバービーの世界観を盛り立てる感じが良かった!
この、全員でバービーを盛り上げる感じがまんま2023年を代表する!という空気にも繋がってたかなと。
確かに本作のマーケティングにおいて問題となった点は看過し難い。
ただ、作品単体として見た時、自分は嫌いになれないっす!
ジャン黒糖

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