しろくま君

バーナデット ママは行方不明のしろくま君のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

今までケイトの映画を映画館で観たことはあれど、主演作は今作が初めて。この作品が初めてで良かった。好きすぎる。キャロルを観てからケイトにハマって、今日までずっとキャロルが世界で1番好きな映画だったけど、今作はキャロルと同率1位と言ってもいい作品だ。ケイトが出ていなくても、同じ評価をしたと思う。

ケイトの役作りに対する姿勢が凄すぎる映画だ。ブロンドミディアムが印象的な彼女が、暗い髪色のボブにしている時点で、並々ならぬ覚悟を感じる。原作を愛して、文字の世界を演じるという覚悟が。

ただのコメディだと思っていたし、前半部分だけ見てもコメディ丸出しの面白映画だろうと高を括っていた。アメリカンなジョークと、上手くいかない女性の物語。しかし、物語が進むにつれて、それは他人事ではなくなってくる。彼女の心の葛藤と、奥に秘めるもの、大切な存在、全てが交差していく瞬間は息を飲む。

ただのコミュ障で人嫌いなおばさんかと思いきや、元天才という肩書きを持つバーナデット。コミカルに映しながらも、徐々に謎が明かされていく部分が監督のうまさを感じさせる。

全ての人とすれ違っていくバーナデットだが、自分を理解してくれる人とは絶対にすれ違わないのが、彼女がただの変人では無いことが伺える。娘は一生バーナデットのことを信じていたし、20年会っていない建築家の友人も、彼女の人生を聞いても否定するどころか、「創造しないとただの社会の邪魔者だ」と言ってのける。彼女が欲しかった言葉を、言えるのだ。

ところが旦那はそうではなく、彼女を天才ではなく、ただの人として見てしまう。ここのすれ違いは本当に見事だった。こういった場合、大抵男側は悪者で、一生すれ違っていくのだが、エルジーはそうではない。本当に妻を人として愛している。彼が悪い訳では無いことは、バーナデットにもわかっているからこそのすれ違いが、見ていて辛かったし、エルジーもそれに気づけてよかった。まあ、バーナデットの言い分聞けやとも思うけど。あんなにも生きることに満ちているバーナデットなのに、医者が「自殺願望があるかも」とか言い出して信じるのも仕事一筋すぎて腹はたった。

バーナデットが娘の誕生の話をするシーン泣けるすぎる。娘といる時のバーナデットが生き生きとしているおかげで、娘のせいで建築を辞めた訳では無いことが分かることがすごい。ずっと丁寧なのに、展開や演技が巧みすぎて、それが丁寧に描かれていることすらも忘れさせてくれる。特に娘と車で「タイムアフタータイム」を熱唱した後に急に泣き始めて「ごめんねママはたまにこうなっちゃうの…」と言うシーンでは、あきらかに鬱症状なのに娘が受けいれているのが、子育て成功すぎる。

個人的には隣人との和解みたいなのはいらなかったけど、お互いがお互いを少し羨ましがっているということが、言葉にしないけどわかったし、あれは隣人との和解というよりは、旅立ちなのだと思った。隣人と上手く会話をしなくても、2人は分かりあっている部分があった。どれだけ仲良く話しているママ友よりも。

そして南極のシーンはずっと圧巻。最初はグリーンバックでやろうとしていたシーンを、本当の氷と海でやろうと言ったケイトに感謝しかない。序盤に少しだけ南極でカヌーを漕ぐケイトが出てくるが、その時点でこの映画は美しいなと思ったし、後半の南極シーンも、ずっと美しく、孤独な彼女に似合っていた。そしてバーナデットが自暴自棄になって南極に行った訳ではなく、絶対に娘との約束を守るという意志を持って、酔い止めもない中、南極に行くのが泣けるし、その先に見えた世界を見たバーナデットの目が美しすぎた。

南極でやりたいことを見つけたバーナデットは本当にイキイキしていて、同じ人が演じているとは思えないほどだった。だめと言われているのに自分のやりたいことに忠実な彼女は美しかった。

最後の家族との再会は、予想出来たが、それでも感動的なシーンだ。バーナデットは天才で、理解されないかもしれないが、本当に大切なものをずっと大切にしてきた。だから、自分で掴んだチャンスを、自分勝手に進めず、まず家族に連絡するという考えになる。それが、バーナデットの1番魅力的なものだと思う。自分以外の誰かを本当に大切に思える天才は偉大だ。

人間嫌いのバーナデットの話だったが、こんなにも人を大切にできる人がいるのだろうかと感動した。こんな愛を持てるようになりたいとも思う。

比較的重い話もあるが、コメディタッチな部分や、ハートフルなシーンが多いので、病んでる人や鬱の人が観ても、元気を貰える映画だと思う。

社会のお荷物ではなく、創造すること。前に進み続けよう。