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おばけのmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

おばけ(2019年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

PFF2019グランプリ作品。極力1人で映画作りをされている中尾監督ご本人でしか撮り得ない映画でありながらも、表現者の内面的苦悩という普遍的なテーマを描いている。

映画を作り出すと家庭にもバイトにも手が付かなくなり、借金を抱えることにもなり、家族は呆れて家を出て行く。映画が完成しても劇場にかからず誰にも評価されない。仲間やスタッフとの共同作業が性格的にも難しいから1人で機材を担いで山を登り、三脚にカメラをセットして、録画ボタンを押して自ら出演をして、演技を終えて停止ボタンを押しに戻る。その滑稽とも言える様子に、地球を覗いている関西弁を喋る宇宙人たちがボケツッコミを入れていくという構造。

ビーズやおもちゃの鉄道、電飾で彩られた宇宙は中尾監督の内面的な創造性の宇宙だが、それは暗い自室で孤独な作業によって生み出されている。宇宙人たちの声は中尾監督の内なる声として激しく自分自身を責め立て、一度は映画小道具を壊して”真面目”に働いてみるものの、銀河鉄道の音は鳴り止まない。つまり、表現者は誰かの評価を必要としていながらも結局は表現しないと生きていけない、その業のようなものが見えてくる。

この手作りな感覚はユーリ・ノルシュテインやミシェル・ゴンドリーを思い出すが、未来の才能を発掘するPFFならではのグランプリだったのだろう。近年はカメラや映像編集ソフトも安くなり、ルックとして映画然とした映画作りが誰にも可能となったが、だからこそ表現者の強烈な情熱が問題になってくるのだと感じる。

ラストで子供と映画作りを始めるに至り、そこにおいて個人の成長を見ることができるが、モノに当たるなどやや不穏な印象を残して映画は終わる。また、宇宙人の声にお笑い芸人を起用して葛藤が重くなり過ぎないようにはしているのだが、そのダイアログがあまり練られておらず、言葉への拘りはあまり強くないようにも感じた。このあたりが、今後のキャリアにおいて、表現者としての成熟を追っていくにあたって、見ていくポイントのように思う。
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