工藤蘭丸

郵便配達は二度ベルを鳴らすの工藤蘭丸のネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

昔は日本では未公開で、幻の名作とも呼ばれていたルキノ・ヴィスコンティの処女作ですね。日本語版Wikipediaには、著作権問題のため数日で上映禁止になったと書いてあるけど、英語版によるとそうではなくて、著作権問題が発生したのは戦後のこと。イタリアで上映禁止になった理由は、内容そのものが当時のファシズム政権によって問題視され、フィルムも破棄されてしまったとのことです。それでも、ヴィスコンティがネガのコピーを保管していたので、何とか復元することが出来たようですね。

それでも、なかなか完全な復元は出来なかったようで、今出ている完全版は上映時間が140分だけど、日本で初公開された1979年のバージョンは112分。それから前に私が見たことのあるDVDは118分。今回WOWOWで放送されたのは134分ということで、私は残念ながらまだ一度も完全版にはお目にかかれていません。

この邦題は、日本初公開時に原作のタイトルから付けられたものだけど、それまでは主に原題を直訳した『妄執』というタイトルで呼ばれていたものでしたね。ただ、妄執というのは仏教の用語なので、原題の訳としては強迫観念ぐらいの方が適しているかも知れません。

私は、一応1981年や1946年のリメイク版も観ているし、原作小説も読んだ覚えがあるけど、この原題から見ても分かる通り、本作は単なるクライムサスペンスというよりも、登場人物の心理描写に重きを置いた内容になってますね。単なる娯楽としてだけなら1981年版が一番面白かったような気もするけど、本作もそれなりに味わい深い作品でした。

前にDVDで観たときには気づかなかったけど、本作に出てきた大道芸人のスペイン人は、どうやら主人公の男を愛していて、女に対する嫉妬心が高じて、警察にたれ込むことになったようですね。この人物は原作には出てこないし、同性愛者だったと言われているヴィスコンティの創作らしいエピソードだと思いました。