真田ピロシキ

シチリアを征服したクマ王国の物語の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.3
『映像研には手を出すな!』で主人公浅草氏を見事に演じた伊藤沙莉が吹き替え3役を務めるので気になっていたフランスとイタリアの合作アニメ。しかし雑念が入っていたので集中力がなかなか向けられずイマイチ物語を理解できなかった。

クマが意味するのは素朴な生活をしている部族なり何なりで、彼らが非道な暴君を打ち倒して新たな王として迎え入れられるのはシチリアの歴史を反映しているのかと思ったが、ざっと調べてみても支配者がよく変わっているがどの辺のことを指しているのかは分からなくて実際の歴史は関係ないのかもしれない。新たな王となったクマのレオンスは元いた人間とも友好的で、現実に置き換えるならば人種や文化の壁を乗り越える賢王として見て未だ差別の渦巻く現代に対するメッセージとしてメデタシメデタシとしたいところだがそうは問屋が卸さない。レオンスに協力した魔法使いアンブロジスの魔法の杖が盗まれた時は人間の国民だけを集めて犯人探しをして、息子のトニオやアンブロジスらに咎められても「クマはそんなことはしない」と身内贔屓。前は「良いクマもいれば悪いクマもいる」と言えてたはずなのに。しかも王国の要職に就いているのは全員クマ。レオンス自身には差別しているという自覚は恐らくないのがややこしいところ。どんな高潔で素朴でも権力というものは人の目を曇らせ腐らせるという永遠に変わらない教訓が込められていて、絵本原作の子供向けアニメに見えてなかなか腐敗した現実の権力者にウンザリした大人にこそ刺さる。もっともジャパンの自由でも民主的でもない連中は最初からドロドロに腐り切っていますがね。愚王を倒してレオンスが王となりメデタシメデタシの部分までしか人間の世には伝わっていないというのも歴史が歪められるような意図を感じられる。

そういうほろ苦い話をとても暖かな色合いのアニメーションで描かれることで陰鬱さはなく教訓を込めたおとぎ話として受け入れやすい。しかし巨大な雪玉で兵士が潰れたり化け猫マーモセットがクマを食い散らすシーンなどはグロさはないが結構エグみがあって毒を欠かさない。やはり大人のアニメ。伊藤沙莉は旅芸人で語り部の少女アルメリーナとトニオの親友である別のアルメリーナ、それとトニオの子供時代を演じていた。子供トニオとしては少ない出番であったが少年の役もあのハスキーな声で上手く演じていて流石。最近は専業声優でなくても上手な人は珍しくなくなっているが、この人はその中でも一歩抜きん出ていると思う。