Sasada

ユンヒへのSasadaのレビュー・感想・評価

ユンヒへ(2019年製作の映画)
4.2
かつて愛し合った女と女。時代によって抑圧され、異常だと声を浴びせられ、無かったことにせざるを得なかった恋。
20年の間出すことのない手紙にしたため続けたその思いが、少しだけ彼女たちの人生を照らす。

現実社会の暴力性を描きつつ、静謐で美しいラブストーリー。素晴らしかったです。

ジュンは日本人の父と韓国人の母を持ち、兄は大学に行ったのにユンヒの進学は許されなかった。
セクシャリティや人種によって、彼女たちの人生は抑圧され続けてきた。(というか抑圧され続けている)

「まちがっていない」し「恥じてもいない」けれど、社会がそれを許さないから手紙にしたためるしか無かったということ。その点だけで彼女たちの置かれた状況を分からせてしまうのが見事。

そしてその秘事を(苦しみを)知っている娘や叔母の善意によって、彼女たちの運命が少しずつ動き出すのもとても優しくて良い。
特にユンヒの娘のセボムが、母がレズビアンであることに接してジュンとの再会を画策する一連は、いよいよ雪解けが近いか?とも感じさせるけれど。

その一方で、自分に好意を寄せるリョウコに対してジュンが「隠しておくべき」と諭すシーンは、現在の日本においてはカミングアウトすることのリスクがあまりに大きいことも思い知らされる。

いまはまだまだ「いろんな奇跡や善意」がなければ彼女たちが彼女たちのままで生きられる世界ではないのかもしれない。
自らの人生を謳歌し始めたユンヒの晴れやかな顔が当たり前のものになるように。そして「雪が止む日がいつくるのか」と呟かずにすむように。そう思わされる傑作。
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