賽の河原

仮面病棟の賽の河原のレビュー・感想・評価

仮面病棟(2020年製作の映画)
3.4
公共交通機関も使わずに行ったんですけど、驚くほど劇場に人が居ませんでしたね。俺含めて4人。
予め断っておきますけど、やっぱりね。緊急事態宣言が出てないとは言え、公共交通機関使わずにね。チャリンコこいで映画館に行って、換気がしっかりしている上にマスクまでして隔席でしかチケットを売っていない109シネマズで、無人の券売機でチケット発券して約100キャパの劇場で俺も含めて4人で映画を観るっていうのはね。褒められたことじゃないんでしょうね。感染リスク爆上げマンですね。誠に申し訳ありませんでした。

映画はね、ピエロみたいな仮面つけた悪りぃやつがクローズドな病院に来て、たまたまその日に当直医だった坂口健太郎さんが巻き込まれるっていう。なんとなーく予告編が嫌な予感といいますか。
「覆面をつけた悪りぃやつ」で言えば『ミュージアム』みたいだし、なんならこの仮面のスタイル的には『ダークナイト』オマージュかな?みたいな安直さがありましたし、「クローズドな病院」だと『十二人の死にたい子どもたち』とかさ、ちょっとあんましおもしろくなかった映画のイメージがバチバチ入っててね。しかも監督は前作が『屍人荘の殺人』の木村ひさし監督ということでね。期待はあまりしてなかったんですけどね。観てみたら、勿論ツッコミどころはあるんだけど、全然それなりに楽しめる作品で最高でしたね#最高
まずこの映画が素晴らしいのはロケハンですね。舞台となる「田所病院」ですけどね、これどこから見つけてきたんですかね。とにかく「かつて精神病院だった」みたいな設定も含めて、よくもまぁこれほどまでにこの作品のイメージにあう病院を見つけ出してきたなっていう病院って「古くて清潔」なのがアンビバレントでチョー不気味ですよ。
当然いくつかの場所を組み合わせて撮ってるんでしょうけど、不気味なライティングの加減も含めて素晴らしい実在感、つくり込みですよね。
しかも、その病院で働いてる内田理央さんと江口のりこさんの雰囲気も「え、こいつら何かおかしい」っていうトーンだし、まあゴリゴリに伏線張ってます感はあるんですけど、入院患者たちが意思疎通できない感じ含めて最高に不穏で結構怖いですね。
キチッと舞台立てを美術含めて作り込んでるから、そこに「ピエロの仮面を被ったマンがやってくる」っていうフィクショナルな展開になっても説得力が持続する。なんなら全然『ダークナイト』のジョーカーと同じくらいの緊張感で観れましたね。
んでそのピエロが連れてくるのが腹部を撃たれた永野芽衣さんというね。いいよね。
ピエロに振り回されてるときの怯えた表情とかすげーいいですね。永野芽郁さん、正直これまでのフィルモグラフィーの中であんまし作品に恵まれてるとは言えないですけど、最高ですよ。
中盤はね、「え、これはどういうリアリティライン?というかピエロちゃん、マヌケなのかな?」と思ってましたけど、終盤にかけてね。こういう病院を舞台にした映画としてはまあ予想がつく範囲の謎解きがあって、その上で、という展開でね。正直2段目の展開は驚かされましたし、そういう意味で言うと中盤の緩めのテンションも見事っていうね。
坂口健太郎さんのゆらゆらした魂抜け気味の演技も良かったですね。
聞くところによると原作はこの映画よりも人物が薄いつくりみたいですけど、そのあたりの補強も見事なんじゃないでしょうか。
ただ、やっぱり倫理的に、というかね。まあ端的に言うと、人を4人殺すと本邦では死刑間違いなしですからね。まあ幾分情状酌量の余地があるにせよ。「5人目を殺さずに、憎しみの連鎖から解放されたゾ」みたいな「登場人物の成長」はいかがなものかとは思うよ。あとお前銃はどこで手に入れたんだよっていう。
謎解きに関しても、必然と偶然のさじ加減が雑とかはあるんですけど、一つだけ言うとね。やっぱり後半で明かされる決定的な真実は、絵として予め映しておかないとそれは伏線として上等なものとは言えないんじゃないかとは思うね。
小説と映画のメディア性の違いと言ったらそれまでですけど、それを映像として映してしまうと終盤の展開がバレてしまうのであれば、そのミステリーはその程度の強度しかないんですよ。というか、映画に向いてないんですよ。
そこを一段乗り越える工夫があったら優勝間違いなしなのに...。
社会的にこういう状況でね。本来なら春休みにもう少し客の入るコンテンツだったのにね。もう5月に上映しているとは思えないですし...。すごくいい映画なのに勿体ないですね。
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