しの

ファースト・カウのしののレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
3.3
ファーストショットで本作との相性がわかる。牛と主人公らが出会うまで1時間。開拓時代の集落に成功を夢見る二人が流れ着くまでの前半では、自然のなかで芽生える友情の滋味が強調され、後半でそこに現代まで連綿と続く資本主義経済の論理が持ち込まれると妙なスリルが生まれる。

冒頭で結末が見える構成。ただ、あれは不穏すぎてある種おかしみすらある。その後、『ノマドランド』を思い起こすような静謐な時間が続き、西部劇という物語で語られてこなかった男たちが確かにそこに存在しているという実感が湧く。逆転を狙う契機がドーナツというのが等身大的だ。

後半で危うい展開になっていくと、ああこれが冒頭のアレに繋がるんだなと常に不穏さを感じるようになるのだが、やってることがなんだか牧歌的なので何ともいえない可笑しさと憐れみと切なさみたいなものがこみ上げてくる。

しかし、終盤は前半の静謐さが別の意味で効いてくる怖さがある。もう自分はいつ彼らがやられるか気が気じゃなかったが、結末は予想外に和やかで驚いた。彼らもまた一発逆転の資本主義的アメリカンドリームの物語に回収されてしまったという悲しさはあるのだが、しかしそれよりも、彼らは彼らの物語を生きたのだという何ともいえない実感に余韻があった。
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