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チャンシルさんには福が多いねのShinMakitaのレビュー・感想・評価

1.8
イ・チャンシルは、40歳の女性映画プロデューサーである。監督と二人三脚で映画製作に取り組んでいたが、その監督が急死して新作製作は中止。おかげで失職してしまったチャンシルさんは、郊外の家に下宿することになり、生活のため女優ソフィーの家政婦となる。男もいない、仕事もない、映画を作り続けたい夢はあったけど、映画会社の社長に「あんたは必要ない」と言われて自分の存在意義も無くなった。そんな凹みまくりのチャンシルさんの前に、2人の男が現れた。1人は、ソフィーにフランス語を教える家庭教師ヨン。温厚で、映画監督志望という若者だ。ヨンの存在が気になり始めたチャンシルさんをさりげなく応援してくれるのがもう1人の男。しかし彼は、チャンシルさんにしか見えない幽霊。香港映画界が生んだあのスーパースターだった…


「チャンシルさんには福が多いね」


以下、チャンシルさんにはネタバレが多いね。

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緩やかで繊細な日常描写、まるでテアトル系でしかかからない邦画のような雰囲気の作品。ノワール・アクション・バイオレンスな韓国映画しか観てない自分にはとても新鮮だったが、本作の監督キム・チョヒが師事してきたホン・サンスはこんな作風なのかもしれない。
ちなみに本作、ホン・サンスも含め、いくつかの映画知識があればより楽しめる作品ではある。小津安二郎、クリストファー・ノーラン、ジプシーのとき、そしてレスリー・チャン。これらを攻めている人…すなわち80-90年代の岩波ホールに代表されるミニシアター映画に詳しく、クラシックにも造詣が深く、かつ大手シネコンでかかるブロックバスター映画も観てる人…というのはかなりの映画通じゃなかろうか。そうありたいとは常々思っちゃいるが、なかなかそうはいかないもんだ。

ま、そんなことは抜きにしても、チャンシルさんというキャラクターは等身大で女性には刺さるだろうし、レスリー・チャンの登場にはいちいち笑わせてもらえるので、誰でも楽しめるのは間違いなし。オチがやや弱いというか、カタルシスがないのが不満だけど、良作。大家さんが抜群にいい味出してるなぁと感じ入って調べたら、この人がいま、「アカデミー賞に最も近い」と噂のユン・ヨジュンだったのね。


全く似てない人が実在のキャラ役でシュールに登場する映画として、ふと「ビリー・ザ・キッドの新しい夜明け」を思い出した。昔のミニシアター映画、もっと観なけりゃなァ…
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