ノラネコの呑んで観るシネマ

夏時間のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

夏時間(2019年製作の映画)
4.3
ユン・ダンピ監督の、味わい深いデビュー作。
酷暑が続く夏の日、事業に失敗した父親と弟の三人で、祖父の暮らす実家へ引っ越した女子中学生が主人公。
ちょうど夫と喧嘩したおばさんも出戻りし、図らずも三世代の大家族に。
現状に馴染めない主人公は、蚊帳を釣った部屋を自分の聖域とする。
よく比較されている「はちどり」や「82年生まれ、キム・ジヨン」とは似た部分はあるが、時代を含めて異なるところの方が多い。
ジェンダーの問題など社会性の部分はあまりフォーカスされておらず、どちらかと言えば、思春期の少女の一夏の成長に主眼が置かれている。
主人公にとって、疎遠だった祖父の家で過ごす夏休みは、ちょっとした非日常。
家族を捨てて出て行った母親との確執を抱えた彼女は、この家で今まで知らなかった大人たちの姿を見る。
そして淡い恋から悲しい喪失まで、短い間に多くの体験をして、少しずつ成長してゆく。
中学生の頃って、夏休みが終わると急に大人びてくる子がいたが、その子たちはこんな体験をしていたのかも。
おじいちゃん役のキム・サンドンの笑顔がいい。
本職の役者じゃないらしいが、あれは演技じゃ出せないよな。
暖かな晩夏の風の様な、優しい映画だ。