永遠の寂しんぼ

ラーヤと龍の王国の永遠の寂しんぼのレビュー・感想・評価

ラーヤと龍の王国(2020年製作の映画)
4.8
『ディズニーの魔法舐めてました』

拝啓、ディズニーさん、今まで完全に舐めててすいませんでした😇子どもっぽいなあ、とかよくある分かりやすい感動系でしょ?みたいな感じで大ヒットしたアナ雪とかも興味なかったし。(ステマ騒動も気に食わなかった)確かに誰にでも理解できる分かりやすい作りではあるがこのラーヤは全くもって子供騙しなんかではなかった!僕のディズニー映画に対する偏見を完全にではなくてもかなり取っ払ってくれた。それこそ今作でドルーンによって石にされてしまった人々を溶かした魔法のように。

まず映像だけでも超一級品でCGアニメとしての出来はおそらく世界最高レベルでは?というくらい凄い。幻想的な集落や自然、コミカルなキャラクター達、何より目を見張るのはシスーの能力により踊るように宙を舞う水滴。ファンタジー盛り盛りの世界を殆ど実写と見紛うほどの実在観マックスで描くのは凄すぎて息を飲む。ラーヤとナマーリのアクションはどれも迫力満点でかなり見やすいように構図が決まっている。タロンの町をナマーリとノイとオンギたちが駆け回るシーンとかも凄まじかった。

そして何より心を打たれたのはこの映画のテーマ。裏切りによって分断されてしまった世界、お互いを信じられず牽制し合う5つの国の人々はもろに今の現実世界にリンクしている。特にアメリカの政治的分断やコロナによる差別や偏見の助長に通じる部分が沢山あるし、ここまで現実的なテーマをディズニーが打ち出してきたのは本当に驚いた。さらに最も重要なのは主人公ラーヤもまた世界に平和と信頼を取り戻したい、と思いつつも心の何処かで人と人の信頼というものに諦めを持ってしまっている事。ここがめちゃくちゃリアルな人間描写だと思った。ディズニーの事だから、主人公が一番正しく優しい、そして敵を改心させ救うみたいな感じだと思っていた。でも今作はそうではなく、みんなどこかで間違ってる、間違ってる中でそれでも諦めずにより良い世界を作るには?という非常に現実的で素晴らしい物語だった。ディズニーに限らずこういう単純な勧善懲悪に対するカウンターのような作品はずっと見てみたいと思っていたし、それをディズニーがやってくれた事が本当に嬉しい。

ラーヤと仲間との友情、人間が信頼し合うことを願うシスー、ナマーリとの衝突と和解、分断された世界の利己心や敵愾心という呪いからの解放。ものすごく王道なお話だけど、ここまで現実的なテーマを分かりやすく落とし込んでしかも圧倒的なクオリティで提示されてしまっては天晴れとしか言えない。最初は5つの舞台があるから少し減らして一つ一つの国のエピソードをしっかり描いたら?とも思ったけど、5つの国=5大陸のメタファーだと気付いて納得。本当に隙の無い圧倒的な完成度の映画だった。本当に強いて言えば、というかただのわがままだけど、もっと描いて欲しかったと思ったのはナマーリのお母さんかな。あの人はナマーリ以上に敵愾人の強そうな人に見えたけど、最後にみんなとまとめて和解しちゃったのはちょっと心残りがあった。

これだけ最高の映画なのに日本では全然話題になってないのが惜しい。シンエヴァの影に隠れちゃった感もあるし。ラーヤはコロナ禍によるディズニーの配信への移行とそれに関するシネコンとの衝突によって公開規模が縮小してるし、今までの大半のディズニー映画とはちがってアジア系と言う事もあってエキゾチックな雰囲気もあるから、若干取っ付きにくい感じがあるのかもしれない。でもディズニーも決して一枚岩では無いことが今回で分かったし、もちろん作品に罪はない。まだ観てない人も是非偏見とか先入観を捨てて観てみてほしいなと思った。もっともっと多くの人の心を動かす力のある魔法のかかった大傑作でございました!