永遠の寂しんぼ

99.9-刑事専門弁護士‐ THE MOVIEの永遠の寂しんぼのネタバレレビュー・内容・結末

2.0

このレビューはネタバレを含みます

『映画にする内容じゃないよう』

テレビシリーズと今作公開日前日に放送されたテレビスペシャル鑑賞済み。
正月と言えば映画ということで元日に家族仲良く鑑賞♪……できたのは良かったもののぶっちゃけ個人的には今作は駄作。
正月スペシャルでやれば充分な内容で映画にはなりきれていない印象が強い上にテレビシリーズにはあった99.9の良さを出しきれていない部分も多く、今作単体でと酷い部分もままあった。

僕が思うテレビシリーズの99.9の面白さは2つ。1つ目は松本潤演じる深山たち斑目法律事務所の弁護士たちによる再現実験を繰り返す事件の真相解明。徹底的に検証をすることで警察や検察が見落としていたり隠蔽していたりしていた事実を掴んでいく面白さがある。2つ目は法廷劇の面白さ。基本この作品は弁護士vs検察か弁護士vs裁判官といった構図で、ハキハキとした深山の論理立てによってそれまで優勢だった検察側の主張を崩し裁判を逆転させていくリーガルハイ的な面白さがある。あとは深山と香川照之演じる佐田のしょうもない親父ギャグの応酬といったコミカルさが作品の雰囲気を明るくしている。

では今回の劇場版はどうか?
1つ目の事件の検証の面白さは従来通りある。今回の本筋の事件である毒入りワイン事件の冤罪証明と真相究明に関してはいつも通り、検証実験を繰り返していく面白さがあって良かったと思う。
今回の事件に一番近いのはテレビシリーズ2ndシーズンで獄中で病死した深山の父親の冤罪を証明するエピソード。父親が関わった過去に起きた事件の真相を検証や証拠集めを通して懸命に事実に近づいていく感じが同じだし、杉咲花演じる新米弁護士の穂乃果を通してテレビシリーズを観てない人にも深山の過去や信条を知ることができる作りになっているのは良かったと思う。

しかし2つ目の法廷劇の面白さが致命的に無い。今作の話は2部構成で、第1の事件は男性の崖からの転落死事件の検証と裁判。第2の事件が上述のある村で起きた毒入りワイン事件である。第1の事件はおそらく一度も99.9を観たことがない観客でもこの映画を楽しめるように導入して深山たちの検証や法廷劇のあり様を描いている。が、この最初の事件は西島秀俊演じる弁護士の名雲が関わっているという事以外は第2の事件とは何の関係も無い。
毒入りワイン事件に関しては最終的に深山たちの検証の結果、真犯人が分かるのだが、何年も前に起きていた事件の性質上、その真犯人を裁く裁判が開かれる事は無い。つまり本筋の事件は事件の再検証だけで99.9もう一つの肝である法廷劇は全く無いのだ。この時点でかなりがっかりした。

おまけにこの映画は結構な予告詐欺映画でもある。予告では南雲が深山たちの敵として対立するように描かれていたが、そんな事は無く、南雲はむしろワイン事件に関して深山たちに協力するポジションなのだ。南雲が裁判を巡って深山たちと対立するのは公開日前日のテレビスペシャルと第1の事件までで、それだけ対立構造を引っ張ったのに彼との対決を描かなかったのは本当に肩透かしだった。

テレビシリーズの続きとしてもつまらない。笑福亭鶴瓶師匠演じる東京地裁の裁判長、川上は実質99.9のラスボス的ポジションで、件のワイン事件の裁判で裁判長を務めたのも川上である。どうせ劇場版をやるなら深山vs川上の最終決戦をやればいいものを、上記の通り時効のせいで裁判は開かれず最後に川上は責任を取って辞職するだけ。弁護士のドラマの劇場版でまとまな法廷劇をやらない時点で根本的な物語のプロット自体がつまらないと言わざるを得ない。

あとはこの手のエンタメ邦画にはよくあるダメな部分も多い。まずギャグがくどい。もともとしょーもないギャグが多い99.9だが今回はやり過ぎで、新米弁護士の穂乃果をギャグみたいな台詞ばかり言うふざけたキャラにしてしまったせいで、多くのスクリーンが凍りついていたことだろう。
それに事件の顛末を見るに、真実を隠蔽していたあの人たちは事実が世間に明るみになることで今頃信用を失い地獄を見ている筈なのだが、そういうキツいシーンから逃げて最後は南雲とその義理の娘(父親がワイン事件の冤罪で亡くなった)との取ってつけたような親子愛描写で感動的な雰囲気にしてしまっている。こういう生ぬるさもつまらない。

総括すると一つの映画としてもテレビシリーズの続きとしても物足りない、わざわざ劇場版でやるなよとしか思えない作品だった。