『雰囲気だけは感動巨編』
正直これはほとんど無味乾燥な映画だった。映像はすごく綺麗だしテーマは良いと思う。謎の病に翻弄される二つの国というのは今のコロナ禍の世界にぴったりである。でも脚本にはだいぶ問題というか無理がある印象だった。そもそもこの作品は二時間くらいの映画にせずにテレビアニメとしてじっくり尺をかけて映像化した方が良かったと思う。壮大な世界観に対してストーリーが追いついていなかったと思う。読んでないから想像でしかないけど、原作が文庫本で4巻もあるような壮大な話を2時間にまとめるのはどう考えても無理でしょう。原作者の上橋菜穂子先生は昔NHKでアニメをやっていた『精霊の守り人』や『獣の奏者エリン』の原作を手掛けた方である。普通に考えたらこの『鹿の王』も同じようにNHK(じゃなくてもいいけど)でまたアニメ化するのが理想だったんだろうけど、それができない事情でもあったのかな?
対立している2つの国の背景に関しては冒頭でテロップで説明するだけでは全然飲み込めなかった。そこを端折ってるせいでどうにも全体的に話が飲み込みにくいし、中盤の森を旅するシーンはゆっくりテンポで進む割に序盤と終盤がハイテンポ過ぎて話に付いていくので精一杯で全然心で感じる余裕がなかった。
中盤の旅の部分はけっこう退屈だし、物語の展開の仕方の引き出しの少なさが気になった。なんか主人公が夢の中で攫われたユナの居場所だったり病気の秘密だったりをお告げみたいなもので知る都合の良い展開が何回もあったと思う。そのわりにはミッツァルと呼ばれる病の仕組みだの犬の王だと鹿の王だのと話の根幹がよく分からないまま終わってしまった。この作品独自の固有名詞も説明もなくいきなり会話ででてくるもんだから困惑した。作り手は原作を読んでいない人間は相手にしていないのだろうか?
声優の演技は特に光るものはなかったかな?
総括すると作画はとても美しいし話も退屈と言うほどでもないけれど全然に心に響かない見掛け倒しな映画だった。長い原作の壮大な物語を無理矢理圧縮して映画にしてしまった、丁寧なやっつけ仕事って感じだった。なんかフランスの有名なアニメの賞を獲ってて期待してただけに残念としかいう他ない。