Sasada

辰巳のSasadaのレビュー・感想・評価

辰巳(2023年製作の映画)
4.0
終始えらい緊張感に満ちたど迫力顔芸映画。試写でひと足早く観せてもらいました。

アングラを煮詰めたジャパニーズノワールなのだけど、こういうのが舞台にしてきた“寂れた地方都市”では無いのが新鮮で良いなと。
車のナンバーとか景色を見る限りたぶん横浜なんだけど、えらく雄大な平原が広がっていると思ったらスクラップ置き場にシーンが切り替わったり、イルミネーション煌めく海辺が映ったあとに謎めいた中華料理店で大きく事態は動く。“特定できなさ”が怪しさや不穏さを醸し出す。

遠藤雄弥演じる辰巳と、彼と行動を共にすることになる葵のバディ、脇を固めるチンピラたちがそれにしか見えなくて、1番イカれてる奴を演ったのが本業役者じゃなく演出家さんで驚く。スクリーンに映るたびに見てるこっちの身体が強張ったっすよ。

何度か出てくる「俺たちは家族だろ」というセリフの薄っぺらさが印象的で、利害でつながることをそう置き換える狡猾さが浮き彫りになるなと。ほんとに「家族」のようになるのは手のかかる年下のあいつらとの(擬似も含めた)兄妹/兄弟関係であり、(死者を含めた)誰かを思うことの本質を抉ってゆく。

後部座席→助手席→運転席と移る人がハンドルを握り、現在の振る舞いを通してあの人は後悔の残る過去の記憶と決別する。そこら中で薫るタバコの煙のように、あらゆることに意図があって強度の高い映画だと思った。
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