スティーブ

すばらしき世界のスティーブのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
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刑期を終えて社会復帰を目指す元暴力団員を描く物語。

以下ややネタバレ。
すばらしき世界、すばらしき作品。見終わったあとで監督が西川美和だと知り、なるほどなあ、と思わされた。西川作品は『ゆれる』しか見てなくて、それでも見終わったあとに、「ああー、西川美和かあ。なるほどなるほど」と思わされるって、それだけ監督としての色がはっきりしていて印象に残っていたってことで、いやはや参りました。
『ショーシャンク』は無実の罪での服役だったけど、本作の主人公はばっちり殺人を犯していて、「今度こそまっとうに生きるぞ」と覚悟を決めても、どうにもこらえ性がなかったり、あるいは社会の向かい風のせいでうまくいかない現実が描かれる。その現実の現実っぷりが、「いやもうほんと、なんとかなってくれよ」と言いたくなる切実さに満ちていて、いやもうほんとねえ……。愚直と呼ぶにはあまりに考えなしでこらえ性がなく、けれど悪い人間なのかというとそうでもない、そんな人間が社会でやっていくには、都合の悪いものには目をつぶるしかない、しかしそんな一種正しくない頑張りがささやかに達成されたとき、その人間はある意味で死んでしまうのだ……そんな悲しみの描き方がとにかく痛切だった。「近頃邦画はだらしない」という物言いをよく聞くけど、そういう人はこういう映画を観てないんじゃないの?と言いたくなる、そんな映画でした。
「娑婆は辛いことの連続です。それでも空は広いと言います。ふいにしちゃいけませんよ」という台詞もぐっさりと刺さりました。おすすめ。