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すばらしき世界のmanamiのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
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小学生の頃からヤクザと関わりを持ち、刑務所などへ何度も出入りして人生の半分近くのべ28年にもなる獄中生活を送ったのち、ようやく堅気になろうとする三上。
生活保護を受けざるを得ないことに情けなさを感じたり、「反社」への対応など13年間ですっかり様変わりした社会についていけなかったり。働きたくてもそれが叶わず、公衆電話ボックスで周囲との断絶を痛感するシーンは、疎外感がこちらにも伝わってきて胸が苦しくなる。
無戸籍児だったなど三上の出生には確かに同情の余地もあるけれど、こういう境遇にまで堕ちてしまったのには、やはり彼の沸騰しやすさに原因があるとしか思えない。作中の津乃田との会話でも「自業自得」という言葉があったように、応援する気持ちだけで観ていることはどうしてもできない。
ただ、あそこまで短絡的なのには、「性格の問題」の一言だけでは片付けられないものも感じる。後半に出てくる「あべくん」のキャラには、そういう意味も込められているのかもと考えてみたり。
それにしても津乃田はいい奴だな。出会ったばかりのオッサンに、あんなに一生懸命語りかけて働きかけて。わざわざ九州まで出向いて。津乃田に幸あれと願ってしまう。仲野太賀ももちろん素晴らしいし。
彼と三上を引き合わせた吉澤も、地味な役ながらなかなかのインパクト。あんな真っ白な服であんなジュージュー焼き肉に行ける度胸もすごいしな。それにさぁ、暗がりで隣に座った長澤まさみが膝の上に手を置いて来たりしたら、私でもドギマギしちゃうわよ〜。
彼女や施設の職員たちは、見る角度によってはヒールと言える存在。「安静に」とキツイ口調で繰り返す医者もまた、ある意味では。でもそれぞれ自分の正義と誠意の中で生きていることも事実なんだろう。
身元引受人の弁護士ご夫婦、ケースワーカー、スーパーの店長、「娑婆は空が広い」と叱ってくれる姐さん。人との出会いは何ものにも代え難い。自分がどれだけ支えられてるか分かっているからこそ、彼らを止めて彼を救う術も知恵も力もない自分への苛立ちが、いっそう胸を締め付けるのか。

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