ぐ

プラットフォームのぐのネタバレレビュー・内容・結末

プラットフォーム(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ポスターのデザインが好きなのと、設定の面白さに惹かれて観た。
結果から言うと、かなり好きな部類。
不衛生で倫理観のない不快な描写は多々あるんだけど、その行為には人間のエゴと醜さを表す意味があるので、個人的にはそこまで気にならなかった。
謎の多い映画だが、この作品が社会の縮図というメタファーであるということだけは明らか。

考えることが多く、考察の整合性を確認するために2回観た。
以下、考察。めっちゃ長い。

まず、この施設にはルールがある。
1、一ヶ月ごとに階層が変わる
2、なんでも一つだけ持ち込める
3、食事は台が自分の階に止まっている時のみ
これが全てに適応されているという前提で進める。

最初の48階では仲の良かったおじさんが、次の171階では主人公をベッドに縛り付けている。
これは環境が変われば、人間関係も変わるということを表しているのかなと思った。
階層の上と下がランダム(裏で何かしらのルールがあると思われる)であるというのが、現実世界でも生きる環境は選べないという不条理さを比喩してるように感じた。
この階のランダムという要素は「人を殺したり、食べたから階が上がった?」と考察している人がいて、めちゃめちゃ腑に落ちた。

やっぱり一番不可解なのはラストの子供。
ストーリーの流れから、あり得るとするならば息子を探している女の子供だろうけど、あのシーンを見た瞬間、子供は主人公の幻覚だと思ってしまった。

理由としては、現実的でないに尽きる。
大人である主人公すら危ういのに、子供が下層で生きていけるビジョンが見えない。
息子を探す女が倒れて降りてきた時「彼女に息子がいる」と主人公が言って、面接官の女はちゃんと疑問に思ってるような反応をしていたので、面接官の言った情報が嘘である可能性は低い。
少なくとも彼女が面接官を勤めた8年間は「16歳未満の子供は入れてない」のと、「あの女が入る時は1人だった」という情報は間違ってなさそう。
(このシーンでなんで子供を16歳以下だと断定してるのかがちょっと引っかかった。名前を変えたりした16歳以上の息子がいる可能性も0ではないから。ほぼこのセリフはラストの子供に繋げる伏線の役割だと思います)

そうしたら女が子供を持つには、施設の中で身籠ったという可能性が一番濃厚です。
しかし、肝心の食料が足りません。明らかに。
200階までなら行き渡る量だと面接官が言っていたのに、実際はもっと下層が存在していたことから、間違いないと思います。(おそらく彼女は、今までここに人を送り込んできた罪悪感、ガンや愛犬を失った悲しみに、追い討ちとしてこの事実を知り、自分の行動に意味がなかったことに気づいてしまって自殺したのかなと思います)
子供の生存ルートは母親が毎月食事を運ぶことくらいしか思いつかない。
つまり、月に一回しか降りられないのに、子供と母親2人分の一ヶ月の食料を確保しなくてはいけない。けれど、2回目の女との遭遇のシーンで171階時点での食料は既に尽きていた。仮に食料を確保していたとしても、この施設のルールによって、台がない部屋では食べることが出来ない。(死体を食べて生きていた線もあるにはあるけど、それにしては子供が小綺麗すぎる。ここで育ったという設定ならばもっと痩せ細ったビジュアルを採用する方が自然な気がする)

あとは施設内のルールとして、月一の部屋シャッフルが前提にあるのが1番の問題。母親よりも子供が上の階層にいることが絶対ないとは言い切れないから。
身籠ったとして子供の大きさから少なくても5年ほどいるとしても、約60回以上このガチャをやらなくてはいけなくなる。
これは一応、子供は666人にカウントされてないかもしれないという抜け道があるけど真偽は不明。
ただ、聖書とかを下敷きにしてるっぽいので犬はカウントされなくても人ならカウントされそうな気もする。

そんな感じで現実的でないというか、あり得ないと思ってしまったので子供は幻覚派。
女は狂って「息子を探す殺人鬼」のキャラを演じてる女優(おそらく彼女にとっての娯楽)という方が納得できる。
むしろ333階のシーンは、今まで蓄積してきた物語の設定とルールをことごとく否定しているように見えた。
・16歳以下はいない→333階にはいた
・他の部屋は2人部屋→333階は子供1人(相方がいたような形跡も死体もない)
・食べ物を確保できない→333階は確保できる
・女が探しているのは息子→333階の子供は女の子と主人公が言っている
・なんでも一つ持っていける→333階には子供が持ってきたようなものはない(仮に相部屋の人がいたとしても、その人が持ってきたものなども見当たらない)
だからこそ、この子供だけではなく、333階自体がもう主人公の幻想なのかなと解釈できる。
ドン・キホーテという物語が幻覚と現実の区別がつかなくなった主人公のお話らしいので、それのオマージュかなと。
特に食べ物を確保できているというのが、全体のルールとして出ているのに食い違っていて、そのような部屋を設ける理由が管理者側にないだろうと思った。(そういった部屋が存在するとしたら、犬が食事を台から取ってしまった時などに、何故か確保できていたとかの描写を挟む必要があるはず)

女の子が伝言になるの意図はよくわからなかった。「パンナコッタは伝言だ」のあとに面接官の女が「ラムセス2世は伝言だ」を挟んで、最後の相方になった黒人が「あの子は伝言だ」と繋がっていく。
ラムセス2世を挟んだことに意味がないとは思えないので、世界初の平和条約を結んだことが関係してるとは思う。
子供は次の世代などのメタファー?で主人公は死ぬけれど、意思はまだ施設で奮闘する誰かに伝えたい的なことなのかな。
その伝言が届くかは視聴者の皆様のご想像におまかせという感じ。

あと、カタツムリは幸福・男女平等などの象徴らしいです。
作中で主人公=カタツムリとおじさんが明確に言っているので、なにかしらのメタファーではあると思う。

基本的にテンポがよく、考える余地がたくさんあり楽しく観た。
施設の全容や目的についてとかが気になるけど、まあ施設自体が風刺であることが見ただけで伝わるので、そこに理由付けはなさそう。
面接官の女が今まで知らずにここに人を送っていたことや、200階以上あることも知らなかったり、調理班がすごい頑張って作って盛り付けもして、髪一本の混入も許さないなどの描写から、施設の職員は中で行われていることを知らないのだと思う。
ガスで眠って運ぶなどは人員より機械にやらせた方が効率的。ベッドが自動でシャッフルされるとか。
死体の処理などが面倒すぎるのでダストシュートはあるだろうなと思う。
もしかしたら、そのダストシュートが穴の最下層なのかもしれない。
最下層まで行き、台から降りた主人公の周りが、実際にはゴミと死体で溢れていた可能性もある。
要は墓場。

ちなみに、もし私が管理者側だったら絶対に0階まで戻ってきた台の上を確認する前に、食器をダストシュートに捨てる経路と、台を丸洗いするシステムを導入するから伝言は届かないだろうな。
ぐ