えむ

花束みたいな恋をしたのえむのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
3.9
『始まりは、終わりの始まり』

何だか最初に観そびれて以降、『今更感』で未視聴だったんだけど、再放送タイミングで。

坂元裕二作品、以前朗読劇とかも行ったことがあって結構好きなんですが、彼の作品の良いところは淡々と過ぎていく時の中で、その台詞運びだけで登場人物の変化が感じられるところ。
しかも、その変化のペースには一切の無理がなく、誰しもがすんなりと、案外自分のそばに転がってる日常のように感じられることだと思う。

この作品では学生時代に出逢って恋に落ち、社会人になって大人になりながら起こる自然な変化の中で、すれ違っていく様が描かれるけども、凄くわかる感じがする。

学生時代は、まだ子供の時代、若い夢の残る時代。
それが社会に出て揉まれるうちに大人になって、現実に飲み込まれていく。

そのペースが違うと、先に大人になった方はまだ子供でいる相手にどこかイラついて上から目線になるし、少年、少女の心を残した方は、大人になってしまった相手に置いていかれたような、好きだった相手はただ変わってしまったように感じるのだ。

お互いが大人になってから始まる恋とは違って、変化の幅が大きい時期だから、ギャップも溝もより大きくなる。
そして一緒に居られなくなる。

仕方の無いこと、というか自然の流れで起きたこと。
人は変化する生き物だから。
昨日の自分と今日の自分は同じではなく、その繰り返し。
どれだけ焦がれても、懐かしんでも、過去の自分にはもう戻れない。
目の前のその人も、過去のその人には戻らない。

全般に流れる空気が、誰しもが通ってきた人生の流れの中で、大切に心に残してきたどこか切なくも甘い青春を感じさせる。

結局は別れてしまったけれど、別れを決めてから、少しずつそれぞれの道に進んでいく明るさに救われた。

タイトル通り、自分のすぐ隣に転がっている小さな恋の想い出の花束を見せてもらった感じです。

やっぱり坂元作品、好きだなあ。
えむ

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