風ノ助

木靴の樹の風ノ助のレビュー・感想・評価

木靴の樹(1978年製作の映画)
4.0
タイトル、ジャケから靴をめぐっての少年の物語を想像していたら、貧しくとも堅実に日々を過ごしている小作農家の日常をドキュメンタリーのように淡々ととらえている映画でした
木靴の樹はその中の一つのエピソードで後の悲劇に繋がります

ただ同じように繰り返す毎日の生活の中にも夜集まって年長者の話を聞いたり村のお祭りを楽しんだり誰かが結婚したり新しい命が生まれたりとささやかな幸せがあります

農民たちは生まれてから死ぬまでこの狭い世界の中だけで暮らしているので外に世界が広がっていることさえ知らず小作制度という搾取による貧困のループからは抜け出せません

こんな生活は絶対にしたくないと思ってしまうけど、神の声を聞き自然に従う彼らの日々の営みは愛おしく尊いものに見えてきます
監督の視点がとても優しいからだと思います

実在の農家の人たちが演じているので大きな豚を屠殺するところなどリアルな作業を見られるのは貴重です

家族と小作人同士の繋がりは温かく描かれている一方で地主との関係は厳しいものでした
一方的な力関係で理不尽な仕打ちを受けても弱いものはただ神に祈ることしかできません
頼れるものが信仰のみというのもなんだか胸を抉られます
姿の見えない権力者が宗教を使って社会を上手く回していってるようにも感じられます

良いことも悪いこともありのまま古い時代の営みを後世に伝えるという点でもとても意味のある作品だと思いました

時間が長くて淡々とし過ぎてるので途中何度か意識が飛んだけど今作は全部を集中して観なくても十分いい映画だと感じられました
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