ふぇりな

カモン カモンのふぇりなのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
3.9
癖の強いA24の作品の中では、かなり万人受けというか、わかりやすくためになるというか、得るものの多い作品だなと思いました。静かで盛り上がりは少ないですが、そこが気にならない方ならば誰でも観られる作品です。

現時点では、私はまだ大人よりも子供(余談ですが、作中ではkidよりもyoung peopleという表現を使っていて、対等さや誠実さを感じて好きでした)のほうに近い年齢だと思っていますが、これからの人生でも常に若い世代との関わりを持っていけたらなと思っています。
それはなぜかというと、若い世代こそがその時代の価値観の最先端にいると思うし、彼らじゃないと分からない感覚や物事の見方がたくさんあると感じるからです。本作では彼らへのインタビューがたくさんありますが、どのお話も示唆に富んでいて深く考えたくなるものばかりでした。多分、年齢や置かれた状況によって感じ方も変わると思うので、色んな人の感想が気になりますし、私自身も何年か経って見返したら違うふうに思うのかなとも感じました。
このような仕事を実際にやってらっしゃる方もいると思いますが、素晴らしい仕事だと思うし、私もやってみたいという憧れを抱きました。

途中途中ではいる本の引用も、どれも名著というか名言ばかりでした。特に「インタビュアーはその現実や状況からすぐに逃れられるが、インタビューされている側にはそれができない」という言葉にはハッとさせられました。私はたまにドキュメンタリー番組を見るのですが、それってある意味題材にされている人々を面白がってしまっている側面というか、消費してしまっている部分もある行為なのだなと自覚しました。でもだからといって、無意味な行為ではないと思うし、知るということによって変えられることもあると思うので、これからの向き合い方を自分なりに考えていかないとなと思いました。

俳優陣や演出も素晴らしかったです。前者については、個人的にホアキン・フェニックスは好きな俳優さんですが、彼自身かなり個性的で奇抜なエピソードを持っていて、色んな意味で話題になりがちです。でも、本来はあたたかく優しい人なのだろうなという雰囲気を感じられて、うれしくなりました。また、ジェシー役のウッディー・ノーマンくんも、可愛らしさと不安定さ、そして鋭い感覚の持ち主という繊細な役を見事に演じていて素敵でした!今後が楽しみです!
後者の演出も、全編モノクロという作品ですが、そうすることで重要なテーマである「音」であったり「言葉」であったりがより浮き出てきて分かりやすくなっていたかなと思いました。また、人種や街といった見た目での違いがあえて分かりにくくなることで、より先入観がなく、平等に受け止められる気がしました。

本作はロードムービーかというと微妙な気がしますが、様々な都市が出てくる作品が好きなので、その点でも夢中になって観ることができました。また、ポールの抱える精神疾患であったり、それによるヴィヴやジェシーの苦しみだったりも、個人的に共感するところがあって刺さりました。

静かに落ち着いて考え込める、ささやかな優しさを感じる作品でした。
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