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由宇子の天秤のrage30のネタバレレビュー・内容・結末

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

女子高生自殺事件を追う、ドキュメンタリー監督の話。

映画の冒頭、TV局上層部に番組の一部をカットさせられるシーンがあったり、加害者家族が人の目を気にしながら生活している事が描かれる。
この時点で「真実と隠蔽」や「偏見と先入観」がテーマになるのかと、ぼんやり考えていたら、主人公の父親が女性高生を妊娠させてしまった事が発覚すると。

TV局の隠蔽体質を批判していた主人公が、いつの間にか隠蔽をする側に回ってしまう皮肉。
しかし、加害者家族に待ち受ける現実を知っていれば、彼女の行動も理解出来る事だろう。

その後も、女子高生自殺事件の真相がひっくり返されたり、妊娠した女子高生に売春の疑いが出たりと、話は二転三転としていく。
その度に主人公(観客)の心情も「真実を明かすべきか?隠蔽するべきか?」「相手を信じるべきか?疑うべきか?」と、タイトルが示す様に天秤に掛けられる。

結局、主人公は隠蔽し、疑う事を選んでしまうわけだけど、最後の最後で真実を明らかにする事を選ぶ。
殺されかけるものの、息を吹き返した主人公は、ある種の贖罪と生まれ変わりを意味していたのかもしれない。

本作を見て思ったのは、果たして隠蔽という行為は悪なのか?という事。
加害者の家族であるというだけで、あれだけの攻撃を受けるのなら、隠蔽という行為はもはや自衛行為の1つの様に思えてしまう。
隠蔽を肯定するわけではないが、加害者本人と家族を分けて考える事が出来ず、私刑の様なネットリンチが放置されてる現状も同時に考えていくべき問題だろう。

あとは、人間の偏見や先入観にも考えさせられるものがあった。
特に妊娠した女子高生と、その父親。
売春の噂を聞いた時、「やっぱり…」と思ってしまった自分がいたのは事実だし、如何にもダメそうな父親が見せる、娘への意外な愛情に驚かされたのも事実である。

人間から偏見や先入観を取り除くのは難しいし、人間を無条件に信用するのはもっと難しい。
何故なら、人間は一面的ではなく、多面的な生き物だからだ。
どんな人間にも良いところがあれば、悪いところもある。
だからこそ、簡単なレッテルに基づいて人を攻撃するのは危険だし、ある種の寛容さを持って接する事が大事なのではないだろうか。
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