九月

エルヴィスの九月のレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.9
始まった瞬間からギラギラ全開なバズ・ラーマンの世界観。配給会社のロゴがまるで監督の名札かと思うほどで、いきなりテンションが上がる。
トム・ハンクス演じる、ちょっと怪しげなトム・パーカー大佐の語りで物語は始まり、その様子からなんとなく行く末がちらつく。

エルヴィス・プレスリーのことを全く知らなかったこと、エルヴィスを語るパーカー大佐の口ぶりに早々に嫌悪感を抱いてしまったこと、切り替わりの激しい映像に全然馴染めなかったこと…などから、途中までは、初めて知るエルヴィスとその人生に、ふーんとかへぇーとかしか思っていなかった。
長尺ながらテンポはとても良く、私にはかえってそれが入り込みにくい要因になったような…これは完全に好みの問題だと思う。

でもそれが、パーカー大佐に対してただただいけ好かない利己的なマネージャーとしか思っていなかったのが、彼のもっと深い闇が垣間見えてきたところで、映画全体の印象がまた大きく変わってきた。
世間体を気にした音楽やパフォーマンスじゃなくて、自分がやりたい、子どもの頃に衝撃を受けて憧れたあの音楽を全うしてほしい、とエルヴィスを応援するような気持ちに。
黒人が多く暮らす地域で育ったエルヴィスは、子どもの頃に聴いた彼らの音楽に魅了されるのだけれど、当時の政治や激しい人種差別の影響で、音楽すら自由にできないなんて…

全体を通して、エルヴィスの変化や年月の経過が見て取れた。
とにかくオースティン・バトラーがすごい。序盤は全く魅力的に思えず、女性たちが虜になっていくのが不思議で仕方なかったけれど、どんどん自信をつけていくにつれ、輝きを放つ大スターにしか見えなかった。
売れてもなおエルヴィスは自分の気持ちや人に流されやすいように感じたけれど、ひとたびステージに立てば、その時の葛藤や不安は一切窺えず、プロフェッショナルを感じる。苦しかったはずの晩年も、ステージ上ではさらに輝きを増しているようにさえ見えた。
その姿に感銘を受けると同時に、ほんの側面、特に良い部分しか見えていないのに、心酔しすぎたり過度に騒ぎ立てたりすることへの怖さも感じた。

熱狂的なファンの描写がかなり衝撃的で呆気に取られたけど、当時のライブの写真を見たら全然誇張しすぎという訳でもなさそうで、またびっくりした。
九月

九月