九月

ザ・バンカーの九月のレビュー・感想・評価

ザ・バンカー(2020年製作の映画)
4.4
1960年代、カリフォルニア州ロサンゼルス。
アンソニー・マッキー演じる、主人公のバーナード・ギャレットは、黒人差別が根深いテキサス州に生まれ、子どもの頃からの野心を胸に、その才知を生かして不動産業に進出しようとしている。
黒人がアメリカで不動産会社を経営するという前例はなかったため、富裕層の出身で有識者にも顔が利くジョー・モリス(サミュエル・L・ジャクソン)の協力を得て、知恵を振り絞り、奔走する。

黒人の一般公共施設の利用を禁止、制限した「ジム・クロウ法」が定められていたこの時代のアメリカ。水飲み場が白人用、有色人種用、と完全に分けられているシーンが映るなど、普通に生活するだけでも差別が激しい中、この地で黒人がビジネスを成功させるなんて、夢のまた夢のように思えてしまう。

このふたりだけではやはり「黒人だから」という理由だけで取り合ってもらえないため、マット・スタイナー(ニコラス・ホルト)という白人の青年を名目上の経営者に据え置くことに。
表向きの商談などは彼に任せ、バーナードとジョーが裏で実権を握る、という構図が面白かった。
マットには土地取引きなどの知識は全くなく、見た目や立ち振る舞いも富裕層のビジネスマンにはとてもじゃないけど見えない…というところからスタートし、裏で手を引くふたりが教養や所作を叩き込んでいく。

この三人がタッグを組み、黒人を差別する人の目を晦まして、事業を拡大していく様子は痛快。
しかし、複数の人間が関係し、大金が絡んでくるとなると、やはり思い通りには進まないのがビジネスだと改めて。少しずつ内部でも問題が生じていく。
困難に立ち向かいながらアメリカンドリームを叶えようとする実際の出来事に着想を得た物語、とても見応えがあった。
バーナードの原動力として、怒りというのが結構大きいように感じられた。

黒人差別に立ち向かう主人公が妻に向けて「君は女性だから〜」という言葉を発して当人を傷つけてしまうなど、人種差別という大きな問題だけじゃなくて、些細なことや身近なところからでも差別は始まるのだな、と思ったりもした。
九月

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