しゅんまつもと

星の子のしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

星の子(2020年製作の映画)
4.1
ちひろが想い寄せる南先生は数学の授業中にこんなことを話す。
「根号の加減は一見違う数字に見えて戸惑うかもしれないけど、中身をよく見てみること。√8+√18は整理してあげればどちらも√2が隠れてる。」
「相似な図形も条件が揃えば公式に当てはまるから。見た目に惑わされずにとにかく公式に当てはめること。いいな?」

何気ない授業の一コマだけど、この映画が何の映画なのかを表す重要な台詞のように思える。

それぞれ人には信じているものがあって、好きなものだってある。それは当たり前に各々違うし、自分とまったく違うものを生き甲斐にしている人がいたって何もおかしくない。
でもこれは宗教観の相違とか以前に、他者とのコミュニケーションの映画だと思う。

そしてもっともっと突き詰めれば、この映画もTENETやウォッチメンとも通じる『自由意志と決定論』の映画なんだと思った。自分の意思とは別に、生まれながらに決まってしまったものを人は脱することができるのか?でもそれって果たして意味があるのか?みたいな。広い海を見つめるちひろの視線に想いを馳せてみたい。


なんてことのないショットも芦田愛菜がスクリーンに映っているだけで、とにかく圧倒的な支配力がある。切り返しの魅力には欠けるものの、そのまなざしの強さは『はちどり』のそれを感じたりするくらい。特に保健室でのカーテンを挟んだ先生との会話はとても良い。
終盤の山道での下から並走するカメラの不穏さは、最後の最後まで最悪なことが起きるかもしれないという不安感を煽る。
ラストは吉田大八の「美しい星」とか「紙の月」を思い出した。その中の一節はこう。
"いいじゃない偽物だって。綺麗なんだから。"